愛の奉仕活動紹介
愛の奉仕活動紹介: Vol.10 あしたのいえプロジェクト
2024年04月23日
「あしたのいえプロジェクト」訪問レポート
今回は東京都千代田区にある麹町教会に所属する活動グループ「あしたのいえプロジェクト」を訪問しました。麹町教会は聖イグナチオ教会という名でも呼ばれて、JRと東京メトロの四ツ谷駅の目の前という東京教区の中でも最も交通の便のよい教会の一つです。1936年に設立された「幼いイエズスの聖テレジア教会」を前身とし、戦中の空襲による聖堂焼失等を経て、戦後1947年に麹町教会としてイエズス会に東京大司教区から委託されました。現在の聖堂は、1999年に建設された円形の聖堂を持つ特徴のある建物となっています。また、東京教区内で最も所属信徒の多い教会でもあります。
麹町教会の入口付近です。
あしたのいえプロジェクトでは、生活困窮者の方々のためにシェルターの設置と運営、及び生活相談を行っています。あしたのいえプロジェクトの事務所は大聖堂の横にある信徒会館の一室に設置されています。今回は、スタッフの高橋さんと藤澤さんにお会いして活動に関する話をうかがいました。当日、シェルターの一室を見学させていただく予定でしたが、急に利用者が決まったとのことで、シェルターの様子についてはあしたのいえプロジェクトから予めいただいた写真を使わせていただいています。
あしたのいえプロジェクトの事務所は信徒会館の一室にあります。
2020年から活動を開始したとのことですが、シェルターを始めた経緯について教えて下さい。
教会で生活困窮者支援の活動をしていた信徒の方から、生活困窮者の自立支援のための資金として遺贈がなされ、それを原資として基金が設立されました。そして、教会としてその活用方法を検討し続けていました。一方で、2017年に生活困窮者の一時的な住居を15年間にわたって提供してきた「IMA緊急シェルター」の活動が諸事情で活動を停止することになり、それに替わる施設が求められていました。そのような状況の中、2020年4月にブラザーと信徒の有志によって基金と寄付を利用して生活困窮者の為のシェルターを設置し運営する「あしたのいえプロジェクト」が提案され、当時の主任司祭の承認を得てスタートしました。
あしたのいえプロジェクトの組織はどのようになっていますか。
組織としては、担当司祭のほか10名で構成され年間の活動計画や予算に関わる決定をする運営委員会、必要に応じ運営と業務の手助けやアドバイスをする実務グループ、実際の業務に携わる業務グループがあります。業務グループには担当司祭の下に専任スタッフが1名、兼任スタッフが1名、ボランティアスタッフが1名となっています。
今回お話をうかがったスタッフの高橋さん(右)と藤澤さん(左)です。
施設の内容はどのようになっていますか。
居住施設は単身者向けのワンルーム3室を地域的には23区内に点在する形で借りています。その内、一部屋は大家さんの承諾を得て3名までが滞在することが可能なものを確保しています。これは、過去に借りていた部屋の管理会社が代わった際、複数人で利用することに折り合いがつかなくなった経験から、家族など複数人での利用ニーズにも応じられる部屋を新たに確保しなおしたものです。
清潔感いっぱいのシェルターの一室となります。
利用期間はどのようになっていますか。
2室は長期用で最長6ヶ月利用可能となります。入居者の多くが難民申請中等の方で長期の利用が見込まれますが、途中で他に移る環境が整う場合もあるので、利用期間については3ヶ月程度で一度区切り、様子をみるようにしています。
退去後の住まいは利用登録団体が準備します。公的支援を受けてアパートに入居される方、別のシェルターに転居する場合やシェアハウス、簡易宿泊所やホテルに短期的に行くことになる場合等、様々です。また、3室すべてを長期用として運用しているといつも満室状態になってしまうため、緊急性の高い入居依頼にも対応できるよう1室は短期(1ヶ月)利用の部屋として運用しています。
入居者はどのように決まるのですか。
予め利用登録している支援団体が25団体あって、それらの団体経由で申し込みがされます。利用の条件は、生活困窮状態にある方で独居ができ通常の日常生活が送れる心身状態の方となり、その条件に該当するか否かは登録団体の方に判断してもらうことになります。複数の入居依頼が重なった場合は、その緊急性を考慮し「あしたのいえプロジェクト」側で判断して入居者を決めます。入居者の生活の支援は基本的には支援団体が行うことになっています。妊婦の方の急な体調不良や入居者と連絡が取れなくなるなど緊急の場合を経験したことから、現在は支援団体にもスペアキーをお渡しし緊急時により迅速に対応できるようにしています。
利用者の外国人・日本人の割合、入利用者の状況はどうなっていますか。
最近の利用者は外国籍の方がほとんどです。2023年度には17世帯27人(内、子供7名)を受け入れ、その内日本人は1名だけでした。この傾向は数年前から続いています。入居される方の状況は日本人の方が病気や貧困、あるいはDV等複雑な状況を抱えていることが多いと思います。しかし、日本人の場合行政等の公的な生活支援制度が様々あり、入居直前に他の制度の利用が決まりシェルターの利用がキャンセルされるケースもあります。外国人の場合は難民申請中や仮放免の人が多く、また在留資格にもよりますが、社会側に受け皿となる支援制度が整っていないために必然的に民間シェルターへの利用希望が多くなります。祖国での状況や来日の背景は様々でしょうが、難民認定やわずかな公的支援を得ることはどの方にとっても厳しい状況が続いています。2023年度はポストコロナで渡航制限もゆるみ、アフリカ系をはじめ日本へ逃れてくる方が急増したようですが、2024年に入って少し落ち着いてきているようにも見えます。
藤澤さんの日常の活動の内容はどのようなものがありますか。
日常業務としては各シェルターへ2~3週間に1回程度の定期的訪問を行っています。基本的に、食糧支援等の日常の支援は紹介団体の役割ですが、私たちも訪問時に様子伺い、設備等の確認、日用品の補充などを行います。必要な方へは入居証明書の発行等も行っています。また、郵便の出し方、買い物の場所等々入居者の方の日常生活に関する質問にも答え、時にはお子さんと遊んだりミニ日本語レッスンをしたり、日本の気候や文化のこと、流行りのアニメの話など、気楽な会話を楽しむこともあります。以前は退去後の掃除もスタッフやボランティアで行っていましたが、現在は人手不足もあり外注することが増えています。また教会内のあしたのいえ事務所では教会を頼ってきた生活困窮者の方の相談を受け、お困りごとに合わせ適切な支援団体に繋ぐなどの活動も行っています。
広報紙「あしたのいえにゅーす」です。
様々な国から来られる外国人が増加すると、言語や生活習慣等が違って対応に苦労すると思いますがいかがですか。
あしたのいえで対応できるのは英語のみです。言語によっては支援団体が通訳を付ける場合もありますが、共通言語がない場合はグーグル翻訳でコミュニケーションを取るようにしています。以前は、日本に長く住んでいた方の利用が多かったのですが、最近は、来日後すぐに入居されてくる方も増えていて、家電の使い方の説明はもちろん、民間のアパートを活用しているシェルターなのでごみの分別とか夜間は洗濯機を回さないようにとか、日本の特有なルールを理解して周囲に配慮した生活をするように説明とお願いをするのに一苦労です。また地震などの自然災害に備え、避難等に関する多言語マニュアルの必要性を感じています。
外国人の方の入居中の状況はいかがでしょうか。
入居された方は、月日が経過するうちに日本における滞在の厳しさに次第に元気を失っていく方も少なくありません。特に、夫婦で入居しても外に出かける資金がなく閉じ込められたような生活が続き、ぎすぎすした感じになってしまうケースもあります。厳しい生活が続く中でも、出来るだけ社会に出たり人と接する機会を増やせるように、麹町教会のカレーの会などの社会活動へのボランティア参加や、岐部ホールの日本語学校での学習など、入居者のニーズをお聞きしながらそれに合う教会内での活動の紹介もし、それらに参加した場合にはその交通費をあしたのいえで負担できるようにしています。
入居者のお世話をしていて喜びを感じる時とはどんな時ですか。
あしたのいえに繋がってこられる方々は、長年路上生活を続けてきた人、何らかの事情で祖国を離れざるを得なくなった家族等、一人一人様々なバックグランドをもっていて、現在置かれている状況も一人一人違いますが、いずれも住まいを失った方、失いそうになった方々です。住まいの支援をすることでまずはその方々に「住まいの心配のない生活」に入っていただけること、この基本的なこと自体に大きなやりがいを感じます。そしてあしたのいえでエネルギーを蓄え、自分の希望する次のステップを見つけて歩みだしたときに、未来に繋げる安全な場所を一時でも提供できたことにまた改めて喜びを感じます。
私たちはとても小さな団体で時に大きな壁にぶつかることもありますが、生活困窮者への支援のために遺贈をされた方、あしたのいえの設立に携わった方々の熱い想い、その際に掲げられたあしたのいえの「理念」や「方針」、それらに折りに触れしっかり立ち返りながら、今後も活動を継続していきたいと思っています。
あしたのいえの理念
ひとりひとりにある賜物が差別・排除によってないがしろにされることなく、ひとりひとりが生かされる社会を作り出すことを目指しています。
あしたのいえの方針
- 安全を守る
- 尊厳を守る
- 意思表明の自由を尊重する
- 将来に関する希望の実現を支える