カリタス東京ニュース

カリタス東京ニュース 2025年2月号

2025年01月20日

インフォーメーション

2025年世界病者の日ミサのお知らせ

毎年カリタス東京が運営を担当している世界病者の日ミサを、2025年も以下のとおり実施します。

日時

2025年2月11日(火・祝日)14:00~15:00

場所

東京カテドラル聖マリア大聖堂

主司式

菊地 功 枢機卿 

 

愛の奉仕活動の紹介コーナー

「カリタス翼」訪問レポート

今回は、文京区本駒込のカトリック本郷教会信徒会館4階にある「カリタス翼」を訪問させていただきました。カリタス翼は公益財団法人東京カリタスの家が運営する、児童福祉法にもとづき、主に発達に偏りや遅れのある就学児童のための放課後等デイサービスを提供する施設です。東京カリタスの家は1969年に白柳大司教(後に枢機卿)を中心に4名のボランティアによって発足され、現在に至るまでに、ボランティアによる活動(家族福祉相談室・ボランティア開発養成室)に加えて、発達障害のある児童のための支援施設「子どもの家エラン」、創作やグループ活動を通して障がいのある方々の自立を支援する地域活動支援センター「みんなの部屋」、そして「カリタス翼」の3事業を立ち上げて運営してきた公益財団法人です。現在の理事長は菊地枢機卿で、東京教区ニュースのコラム「カリタスの家だより」でご存じの方も多いと思います。訪問当日はクリスマスパーティーが予定されていました。カリタス翼の管理者兼児童発達支援管理者の向井さんにお話を伺いました。

カトリック本郷教会の聖堂です。

 

カリタス翼は本郷教会の信徒会館の4階にあります。

 

インタビューにお答えいただく向井さんです。

カリタス翼は児童福祉法にもとづいて放課後等デイサービスを行う施設ということですが、児童福祉の中での位置付けはどのようになっているのでしょうか。

戦後の障害者の福祉政策は傷痍軍人への支援から始まったと言われており、大人の身体障害者が最初のその主な対象とされてきました。地方自治体ベースの就学前の障害児支援はありましたが、就学後は専ら文部科学省の管轄として特別支援学校・学級等の学校における対応が中心となっていました。しかし、児童の障害に対する知見と関心が深まり、また、女性の社会進出にともない障害児をお持ちのお母さんも社会で働くことができる環境整備が求められるようになりました。そのために、放課後等に障害をもったお子さんが過ごせる場所が必要ということで、2012年に児童福祉法で児童発達支援事業や放課後等デイサービスが国ベースで法制化されました。

 

子どもたちの部屋です。これからクリスマスパーティーの準備が始まります。

 

文京区で第一号の放課後等デイサービスとのことですが、カリタス翼が設立された経緯を教えていただけますか。

東京カリタスの家では文京区関口にある東京カテドラルのカトリックセンター内で設立初期より障害を持ち困難をかかえる子どもと母親への支援活動を様々な形で行なっていました。1970年に「子どもクリニック」開設、1974年に「子ども相談室」へと名称を変更し、後に文京区から助成を受けながら区内の自閉症児の療育拠点としての役割をになうことになりました。2012年に児童福祉法の改正がおこなわれて障害のある学童を対象とした放課後等デイサービスの制度が設けられ、区からの意向もあって2013年に放課後等デイサービスに移行しました。そして、事業所も岡田大司教様のご尽力によって本郷教会信徒会館4階へと移転しました。

本郷教会の銘板です。

カリタス翼に通うのはどのようなお子さんなのですか。

ここに来られるのは小学生(7歳)から高校生(18歳)までの身体、知的、精神の障害をお持ちのお子さんになります。自閉スペクトラム症等のいわゆる発達障害は精神障害に含まれるとされています。現在、ここに通う子供達の中には、海外留学まで経験した自閉スペクトラム症のお子さんや、ダウン症のお子さんなど様々な方がいらっしゃいます。看護師の看護や特別な介助を必要とする重度の障害のあるお子さんはここでは対応できないので、専門的な施設に行くことになります。

発達障害というのはどのような障害なのですか。

発達障害は神経発達症とも言われ、成長の過程で脳の発達が何らかの理由で極端に偏っていて、社会とうまく適用ができない状態です。神経発達症には自閉スペクトラム症、 注意欠如多動症、知的発達症等が含まれ、発達の中で偏りが見られ、得手不得手が極端に現れると考えることができます。ケースです。これは、これは障害というよりも、左利きの人が右利き優位の社会の中で暮らしづらさを感じることと似ています。しかし、違いが大きすぎると当人が社会の中で暮らしづらくなるだけでなく、それが原因で精神的に病んでしまうことになります。

つまり「障害」とは社会との接点で生まれるもので、社会の問題として考える必要があると思います。例えば、自閉スペクトラム症のある方の感覚が過敏で満員電車で人とぶつかると極端に痛みを感じで満員電車に乗れない、電車に乗るのが好きだが、アルコールの匂いに敏感で新幹線に乗れないという方もいます。本来自閉スペクトラム症のある方は、予測可能な世界を好み、真面目で規則的なバターンを好み、秩序を守る律儀な方が多いにもかかわらず、このような状態の為に社会の接点の中でなかなか力を発揮できないで苦しんでいる人が多いのです。そのような人を周囲から空気を読めないとかマイペースな人というようにマイナスのイメージで捉えられてしまいます。でも、それって彼らだけの問題なのでしょうか。

放課後等デイサービスの目的

一般的には、放課後等デイサービスは、法律上では学童期の障害児を対象として放課後や夏休みに生活能力向上のための訓練を提供するとともに、放課後の居場所づくりのためにあります。カリタス翼では共に生きるという考えを重要視しています。私の思いとして障害と共に生きるということがあります。障害のある人がその弱さを克服するよりは、それを持ったままそれと共に生きるということだと考えています。人の弱点は強みと表裏一体であるとも言われます。例えば、自閉症スペクトラムの人が、一方では「融通が効かない」、「こだわってしまう」ということは、「一つの事を深める」こと、「こつこつ丁寧にやり遂げる」ということに繋がります。そして、それは生きていく上で大切なことでもあります。一人一人が違っていていいのではないかと思います。

得意なことを大事にする。その子どもが得意なチャンネルを使ってできたという体験をしてもらうことを大事にしたいと思っています。それを通じて自分はちゃんとできる、信頼してくれている大人がいると感じてくれればいい。カリタス翼に来れば、自分のことを理解してくれる人がいて、みんなと過ごす中で達成感が得られると感じてもらうことが大切で、そのような居場所にしたいと考えています。

放課後等デイサービスの問題点について教えてください。

放課後等デイサービスの制度が始まってから、最近では都内だけでも何千ヶ所と開設されています。しかし、その中には児童を放任しているところがあると聞きます。元々そのような放任された状態が苦手な子どもは、やることがなくて自傷行為や悪戯等の問題行動が増えてしまうという結果を招いてしまいます。障害のある子供が本当に自分らしくいられる場所を提供するには、高い専門性と倫理観を持った人がケアする必要があります。放課後等デイサービスはこの観点がないと姥捨山になってしまう恐れがあります。たしかに、親にとって預け先があるのは良いことかもしりませんが、障害のある子どもからみたらどうなのかを考える必要があります。一方では、学習塾のように一方的に課題をこなさせようとするところもあり、バランスの良い運営が必要であると考えます。

ここでのプログラムの内容について教えてください。

まず、子ども達の通って来る日ですが、週一回の子どもが7割、週2回が2割、特に必要な子どもの場合は週3回の場合もあります。現在、小学生から高校生まで述べ32名の子どもが登録されています。

通所してくる学童は、開所している時間であれば何時に来ても良いことになっています。文京区の場合、王子特別支援学校や近くの支援学級のある小学校がここから離れているのでヘルパーが付き添って来ています。

親御さんからおよその来所時間は前もって確認をしておき、その子供に合わせたプログラムを毎回作成しています。ここの場合、様々な障害の子供がいて、さらに年齢の幅も大きいので同じことを皆でやることは難しいのです。個別のプログラムを組んで、最後の集まりを一緒にするとか、今日みたいなクリスマス会は一緒にやるとか工夫をしています。

個別のプログラムとは、例えばここに来てまず宿題を終わらせる子供がいたり、絵を書くのが好きでまずお絵描きから始める子もいたりします。個別スケジュールは文字が読める子はシステム手帳に予定を書いて置いてあげ、また、文字を読めない子供にはイラストをカードにして順番にわかるようにしておいて、それらを確認するところから始めます。一人一人の活動に加えて、スケジュールの中に小グループで一緒にできるようなものを入れるようにしています。このプログラム作りは大変ですが、カリタスの特徴の一つになっています。

このような、個別プログラムを通じて、その子供が得意なチャンネルを使って自分で出来たという体験をしてもらい、自分はちゃんとできる、自分を信頼してくれ、見てくれている大人がいると感じてくれればいいと思います。

言葉の代わりに写真カードで欲しいものを要求するお子さんもいます。

 

子ども達の学習スペースです。

 

手作りの教材です。

教育機関や他の福祉施設との関係はどうなっていますか。

こちらから学校に様子を見にいくこともありますし、夏休みに学校の先生がこちらに見にくることもあります。また、組織的には、文京区内の障害児ネットワークや障害児支援子供専門部会を通じて医療・教育・福祉の各機関と連携を図るようにし始めています。

どのような方が職員として働かれているのですか。

現在、職員は常勤4名とパート、後は上智大学や学習院大学から実習生が来てくれています。現在は若い職員が多いのですが、大学で社会福祉、心理を専攻した人や兄弟に障害者がいる人等、熱意のある方々が在籍しています。「子どもの家エラン」の場合は未就学児ということで専門性を必要としているとおもいますが、カリタス翼の場合は子ども達が実際に生きていく社会と同じように色々な方にも参加してもらうほうが良いと考えています。例えば、本郷教会の信徒の方もボランティアとして参加していただいています。

 

お揃いのTシャツを着た若いスタッフの方々です。
子ども達にとってはお兄さんやお姉さんのようでした。

 

親御さんとの関係はいかがですか。

基本的には年2回面談するようにしています。今は親御さんとラインで繋がり、相談をいつも受けるようにしています。先日も親御さんから、最近クリスマスのCMとか話題がでるので、子どもが翌日クリスマスになると思い込み、実際クリスマスが来ないとパニックになって困っているという相談を受けました。この子はカレンダーを読むのが苦手な子で、職員が特別な巻物のようなカレンダーを作って先の見通しを理解する練習をすることでクリスマスの日まで待てるようになっていました。他には、通学の問題や卒業後の地域の相談窓口の紹介などもします。

地域社会との繋がりはどうでしょうか、また、本郷教会の信徒会館を利用していますが本郷教会との関係はいかがですか。

コロナの前は本郷教会のバザーに参加させてもらっていましたが、そのような行事がなくなって、地域と交流機会がなくなってしまい、地域との接点が少ないことが炙り出されたと考えています。今後の課題として、地域とのどのように関係を持つかを考えていく必要があると考えています。近隣住民からの障害者施設への理解は本郷教会のおかげで得られていると思っています。大変ありがたいことです。

コロナ禍で相当影響を受けたと思いますが、現状はいかがですか。

コロナ禍で合宿ができなくなりましたが、現在は復活しています。その他の活動も元に戻りつつあります。この間、活動できなかったことでそれらの活動の重要性を再認識したと思います。

障害児の現状はどうですか。

社会で障害に対する理解が少しずつ広まってきたことによって、子ども達が無理解から傷つくことが少なくなり、他害が激しく対応が難しい人が少しずつ減少したように思います。しかし、子どもに対する居場所は整備されてきてはいるが、その制度の網から漏れてしまつている子ども達が一定数います。知的に障害に入らないがボーダーにいて普通学級に通学している子ども達が支援を受けず一人で頑張っているけど、卒業した後行く場所がなくなりひきこもりになってしまうケースに時々遭遇します。本来は、そうなる前にその人を受け入れる場所が必要であると思います。

この事業に関わっていてよかったと思う瞬間はどのようなときですか。

子ども達の成長に出会えた瞬間ですね。例えば、味覚過敏の子が皆なで作ったカレーを食べることができたと喜んで報告しに来た時とかですね。また、卒園していった若者が顔を出して現状を報告にしてくれた時です。職員の若い人たちが頑張っていること見る時も嬉しくなりますね。

 

インタビューの後、クリスマスパーティーの準備のため、子どもたちがスタッフのお兄さんやお姉さんとケーキを焼いたり、グラタンを調理したりしている所を見学させていただきました。皆なで楽しそうにわいわい話しながら料理をしていました。

クリスマスパーティーのメニューです。

 

ケーキをスタッフのお兄さんと作っています。

 

ケーキをレンジに入れてハイポーズ。

 

グラタンに入れるウィンナーを真剣に切る子供とそれを見守るスタッフです。

 

 

「子どもの家エラン」訪問レポート

今回は杉並区南荻窪にある子どもの家エランを訪問させていただきました。子どもの家エランは公益財団法人東京カリタスの家が2017年に開所した児童発達支援事業の施設です。東京カリタスの家は1969年に白柳大司教(後に枢機卿)を中心に4名のボランティアによって発足され、現在に至るまでに、ボランティアによる活動(家族福祉相談室・ボランティア開発養成室)に加えて、発達に凸凹のある就学児童のための放課後等デイサービス「カリタス翼」、創作やグループ活動を通して障害のある方々の自立を支援する地域活動支援センター「みんなの部屋」、そして「子どもの家エラン」の3事業を起ち上げて運営してきています。現在の理事長は菊地枢機卿で、東京教区ニュースのコラム「カリタスの家だより」でご存じの方も多いと思います。

当日、杉並の住宅街の一角にある施設に訪問したときは、ちょうど子どもたちのお帰りの時間でした。お迎えを待つ子どもたちが部屋の中で楽しそうに遊んでいて、笑い声が玄関まで聞こえてきました。子どもの家エランの管理者の鈴木さんと児童発達支援管理責任者の中村さんにお話を伺いました。

「けがれなき聖母の騎士聖フランシスコ修道女会」修道院の面影が残る外観です。

 

正面玄関となります。

 

インタビューにお答えいただく鈴木さん(左)、中村さん(右)です。

子どもの家エランは児童発達支援事業を行う施設ということですが、児童発達支援事業というのはどのような事業でしょうか。

児童発達支援事業は児童福祉法で定められた事業です。この事業では、知的障害や発達に特性のあるお子さんに対して「本人支援」「家族支援」「移行支援」「地域支援・地域連携」をすることが求められています。現在、保育士、臨床発達心理士、音楽療法士、作業療法士、児童指導員など、様々な資格を有する常勤6名、非常勤1名の合計7名の職員で支援にあたっています。

年齢的には何歳くらいのお子さんを対象としているのですか。

児童発達支援事業は基本的に未就学の児童を対象にしていて、エランでは一日最大10名の3歳児から5歳児までのお子さんを受け入れています。

子どもの家エランが杉並区に設立された経緯を教えていただけますか。

元々ここは、「けがれなき聖母の騎士聖フランシスコ修道女会」の修道院でした。この建物を東京カリタスの家が譲り受けた際、地域のためにこの建物を使って何ができるかと法人内で考えました。杉並区にも話を聞き、児童発達支援事業の中でも、幼稚園のように長い時間通える場所が不足しているという状況があるということを知り、現在の形で開所しました。

 

修道院の当時はお御堂として使われていた部屋です。
現在はホールとして、運動の活動や、クリスマス会などのイベント会場として使用しています。

 

園庭ではマリア像が子ども達を見守っています。

ここに通園されている発達障害の子どもとはどのようなお子さんなのですか。

知的に遅れがあるお子さんが多いのですが、知的な遅れがないお子さんもいます。脳の機能に障害があるため、学習のしかたに特性があります。

幼稚園・保育園や家庭など沢山の刺激や情報の中で、自分に必要な情報を取捨選択することに難しさがあります。そのため一般のお子さんと同じ環境で、社会のルールを自然に学ぶことが難しいお子さんがほとんどです。でも、わかりやすく説明してもらったり、目で見て理解できる工夫をしてもらったりすることで学んでいけるお子さんたちです。

日常での困りごとの例を挙げると、お子さんが、自分の行動に対する保護者の反応を誤解して受け取ってしまうということがあります。子どもが好ましくない行動をすると、保護者が「やめて!」とか「ダメ!」など、大きな反応を返します。大人としてはやめてほしいと思っていても、子どもは大人が反応してくれることが楽しくて、その行動を続けてしまうということがあります。

子どもは大人を困らせたいのではありません。大人が反応するからやっているのです。状況を整理して、ここではこういう行動をすると良いんだよとルールをわかりやすく教えると、「なるほど」と教えたとおりに行動してくれることが多くあります。一旦理解すると、そのルールをきちっと丁寧に守って行動できるのが発達障害のあるお子さんだと考えてもらえると良いかもしれません。

発達障害の人は困った人だと思われがちですが、そうではありません。失敗したくないし、正しいことをしたいと思っているのですが、自分の脳の働きだけでは正しい行動を選べずに困っている人たちだと考えていただきたいと思っています。そして、どう伝えるとわかりやすいのか、彼らと関わる人たちみんなで考えてもらえるとありがたいです。

子どもたちに様々な情報を丁寧に伝えるということですが、具体的にはどのようにするのでしょうか。

私たちが言葉のわからない海外に旅行する際、外国語だけで今日の予定を説明されたり、何の説明もなくあちこちに引っ張っていかれたりしたらとても不安になると思います。わからないから不安でホテルに留まっていたくなったり、過去の経験を頼りにこの時間にはこの場所に行けばいいのかなと思ったりするのではないでしょうか。そんなとき、旅程表が手元にあったら、次に何をするのか、どこに行くのか、いつご飯が食べられるのかが自分で確認できて安心できますよね。同じように、話し言葉の理解に苦手さのある発達障害のお子さんは、言葉であれこれ説明されてもわからないと、不安で動けなくなったり、以前にしたのと同じ行動をして安心したくなったりすることがあります。不安を取り除いて安心して行動できるように、エランではスケジュールなど目で見てわかる様々なツールを使って、お子さんたちの理解を助けています。

これ(下記写真参照)はあるお子さんが使っているスケジュールです。一日のそのお子さんの行動予定が絵と文字のカードで順番に示されています。毎日、職員がそれぞれのお子さんに合わせたプログラムを作成し、それに合わせてスケジュールカードを貼り替えて用意しています。このスケジュールでは、一番上にあるカードをはがしてその場所まで行き、そこにある箱にカードを入れてから活動を開始します。自分がどこの場所に行って何をするのかがわかれば、お子さんは一人でその場所に行って、適切に行動することができます。

 

子どもたちの一日のスケジュールについて説明してくれました。

 

緊急時にも子どもたちが不安なく避難できるよう、スケジュールと同じようにカードで示します。

お子さんによってスケジュールのかたちは変えるのですか。

お子さんがどのようにすれば理解できるかは差異があります。カードでは理解できないお子さんには、実際の石鹸ポンプそのもので手洗い場に行くことを示したり、文字の読めるお子さんには文字で示したりして、その子どもに合わせた情報伝達の形態を選択しています。

また、その子どもによって必要な情報も異なります。音楽が苦手な子どもには、他の子どもたちは音楽の活動をするけれど、その間あなたは別の活動をするよという情報をあらかじめカードで示して、突然楽器の音が鳴り始めてびっくりすることを防ぎます。いつ家に帰れるのかという不安が強い子どもには、すべての活動が終わったらお家に帰れるよと知らせるために、その日一日のスケジュールを示します。そうすると、最後には家に帰れるんだなとわかって、安心して活動に参加することができます。このスケジュールは、ここに書かれていないことが急に始まることはないし、ここに書かれている通りのことが起きますよ、という子どもとの契約書みたいなものだと思っています。また、当日子どもがやりたくないと伝えてくれたり、時間がなくなってできなくなった活動のカードには中止マークを貼る、Aの活動をやるはずだったけどBの活動をやることになった場合は変更のカードを貼るなど、日常につきものの中止や変更も、契約書を訂正するように、目に見える形でスケジュールに示しています。

 

ピアノの音に敏感な子どもを安心させるために、ピアノを使わないときはカバーがしてあります。

このような情報伝達をすることでお子さんの行動はどのように変化するのですか。

入園当初は泣いたり、活動に参加できなかったりしていても、半年くらい通う中で、スケジュールなどわかりやすい情報伝達方法を理解して、安心して活動に参加するようになるお子さんがほとんどです。エランの入園前に幼稚園でずっと外にいたり、歌の時間がきらいで泣いたりしていたけれども、エランに来て、活動に参加できるようになったお子さんもいます。

発達障害のお子さんは職員が全て手を引いて移動するというイメージを持っている方もいらっしゃると思いますが、ここでは子ども達がスケジュールを見て自分で行動できるようになることを目指しています。

また、集団で活動するときのルールの理解が難しいために、順番待ちができないお子さんもいます。しかし、いつ自分の番が来るのかを見える形で示すと、座って順番を待てるようになります。ルールがわかればその通りにやろうと努力するし、他の子どもにもルールを守るように働きかける子もいます。自分が一人できちんと行動できているということがすごく嬉しい子どもたちなのです。そのような素敵なお子さんたちですが、周りの人々の理解も含めて環境が整わないと十分に力を発揮できないケースが多いのです。

お子さんからのメッセージの伝え方についてはどうですか。

発達障害のあるお子さんの場合、言葉は喋れても、相手に自分の意思を言葉でうまく伝えられないことがあります。人に頼むのではなく、自分で何とか解決しようとして、物を取るために高い所によじ登ったり、一人で外に出て行ったり、わかってもらえないとかんしゃくを起こしたりと、家族が頭を悩ませる行動をとることがあります。言葉でもそれ以外の方法でも、自分の意思を相手に伝えるといいことがあるんだと本人に知ってもらうことが重要だと考えています。

それを知ってもらうための一つの方法として、このようなカード(下記写真参照)を利用して自分の意思を人に伝えられるように練習しています。次第に、このような情報伝達ツールがなくてもコミュニケーションを取れるようになっていく子どももいますが、卒園後も使っている人もいます。その場合、スマホのアプリにも同じようなコミュニケーションツールがあるので、それを利用することもできます。

 

子どもたちの意思伝達のためのカードを示しながら説明してくれました。

支援プログラムの内容について教えてください。

エランには、3つの利用のしかたがあります。

午前通園クラスは、通常の幼稚園と同じように週4日~5日利用できます。午後通所クラスは幼稚園や保育園に通っているお子さんを対象に週1日1時間、楽しく遊ぶなかで、「ぼくってできるんだ!」と自分の力に気づき、自信をつけられるような活動を行っています。昨年度から始めた併用クラスは、幼稚園や保育園に通っているお子さんが対象で、週1~2回、午前通園クラスと同じ時間に利用できます。

幼稚園や保育園との連携はどうしているのですか。

園でのお子さんの活動の様子を見学させていただき、エランでの様子もお伝えして、園の先生と一緒にそのお子さんがどうしたらもっと園生活を楽しめるようになるのかを考えています。また、運動会や発表会など、大きなイベントの練習が始まる前に活動内容を伺って、エランで個別に取り組むことで、園での練習が始まる時には「ぼくこれ知ってる!」と自信をもって練習に参加できるようお手伝いさせていただくこともあります。

子どもたちに用意されているプログラムにはどのようなものがあるのですか。

一人一人が個別にやるプログラムとしては、主にエランタイムという自立課題・チャレンジタイムという1対1課題があります。

集団活動としては運動・ゲーム(ボーリング・かるたなど)・制作(季節にちなんだ工作)・感触遊び(スライム・片栗粉など)・音楽・リズム遊びなど様々なプログラムを用意しています。また、近所の公園へのお散歩・園庭遊び、夏にはプールや水遊びなど、屋外活動も行っています。遠足や運動会、芋掘り、クリスマス会などの年中行事も毎年行っています。

 

学習スペースには様々な手作りの教材が用意されています。

エランを卒園した後、お子さん方は支援学校に行かれるのですか。

現在までの卒園児は、支援級や通常学級に進むお子さんがほとんどでした。通常学級では個別の特別な支援はない場合が多いので、自分から先生に発信していけるように、通常学級に行くお子さんには、わからないことは先生に聞くといいんだよ、困った時には先生が助けてくれるんだよ、と教えています。

職員の方と親御さんとの関係はいかがですか。

通園クラスでは月に1度親子日を設け、お子さんの活動の様子を保護者に見学してもらっています。1日見学するのが難しい場合は、月に1度面談しています。来所が難しい場合は、ZOOMでの面談も行っています。LINEの相談も受け付けていて、最近はお父さんからの相談を受けることも増えています。

保護者会などで顔を合わせる機会が多いお母さん方に比べ、お子さんのことを気軽に話せる仲間づくりの難しいお父さんたちの交流の場として、年に一回お父さんだけの勉強会を開催しています。

普段なかなかエランに来ることのできない保護者の方にも、動画や写真を配信して、エランでのお子さんの活動の様子を伝えています。

地域社会との繋がりを大切にしているとのことですが。

地域社会との関係を大切にしたいと考えています。ボランティアの方が教材作りやガーデニングに協力してくれています。また、大学の実習生も受け入れています。先ほどお話しした通り、幼稚園や保育園など地域の施設とも連携しています。

新型コロナウイルスの流行もあり、なかなか近隣の方との交流ができていませんが、夏祭りの花火や屋外での音楽会などに近隣の方が足を止めて下さることも増え、ご近所にも温かく見守っていただけています。

 

ボランティアの方が手作りしてくださったタペストリーです。

 

ボランティアの方が手入れをしてくださっている菜園です。
今日は子どもたちが大根を収穫しました。

発達障害の子どもたちが増えているという話も聞きますが、現状はどうなっていますか。

ここで受け入れられる人数は一日定員10名と限られていますが、発達障害の子どもが増えているというのは学術的にも言われており、実際に利用希望のお子さんも年々増えています。それに対応するために、併用クラスを新設するなど、事業所としてできる限り努力しています。

施設を運営していて現在直面している課題はなにかありますか。

退職者がでると次の人を採用するのが大変です。この施設のやり方を理解してもらうのに時間がかかり苦労することがあります。子ども達への対応を丁寧にしていこうと思えば、一定のスキルを持った人たちが必要ですが、そのようなマンパワーが業界全体として不足していると感じています。

近年、お子さんだけでは無くご家族の問題にも取り組むことが求められています。社会全体としての子育ての機能が落ちてきていて、その中で相談先のない保護者がネット情報に振り回されて不安になるという状況があるように思います。事業所として、丁寧に保護者との関係を築き、安心して子育てをできるよう、少しでもお役に立てるように努力していきたいと考えています。

この事業に関わっていてよかったと思う瞬間はどのようなときですか。

入園時は子育てに手一杯で、自分のことに構う余裕もなかった保護者の方が、お子さんの成長と共に徐々におしゃれになって、明るい笑顔で楽しそうにお子さんの話をしている姿を見ると本当に嬉しくなります。

 

 

カリタス東京活動報告

ステラマリスの活動で船を訪問しました

ステラマリス(STELLA MARIS) は、教皇庁(バチカン)の統合的人間開発省の下に位置づけられており、地域別、国別、教区別に組織され、世界各国を移動する船員たちの福利、厚生、医療、家族の支援などを目的としています。世界各国の港で船員たちを訪問し、歓迎し、福利厚生や心のケアを目的とした奉仕活動を行う組織です。東京教区ではカリタス東京の船員司牧部門である「ステラマリス東京」として取組んでまいります。

船員たちの多くは、発展途上国の出身で、限られた場所での過酷な労働、家族と離れた孤独な船上生活を強いられています。彼らにとって、海と陸との接点「みなと」に寄港した際のわずかな休憩時間は、数少ない憩いのひとときなのです。ステラマリスはそんな船員たちを訪問し、宗教や国籍を問わず「みなと」での憩いのひとときを応援し支援を行います。

12月27日(金)、東京青海埠頭に行ってコンテナ船を訪問してきました。 青梅教会の福祉部の方々が編んでくださった毛糸の帽子を持って伺い、船長さんと一等航海士の方にお渡しして来ました。良いクリスマスプレゼントになったと思います。