愛の奉仕活動紹介
愛の奉仕活動紹介: Vol.18 女性ネットSaya-Saya
2024年10月22日
「NPO法人 女性ネットSaya-Saya」訪問レポート
今回は東京都にあるNPO法人 女性ネットSaya-Sayaを訪問しました。NPO法人 女性ネットSaya-Sayaは2000年に設立され、暴力のない社会を目指して、特にDV虐待、暴力被害で傷ついた女性たちが本来の活力ある「わたし」を見つけて、自分や周囲の人々と繋がりを持ちながら人生を再構築する道を共に歩むための活動を行っています。その活動内容は相談、生活支援、DV被害女性の自立支援プログラム、DV被害女性と子供のための支援プログラム、子育てサロン、支援者養成講座等多岐に渡っています。
当日は、共同代表理事の松本和子さんにお話を伺いました。
インタビューにお答えになる松本さんです。
2000年に無料電話相談、自助グループミーティンク、工房の活動を始めたれたと聞いていますが、始められたきっかけはなんだったのでしょうか。
1995年頃に依存症の専門家である斎藤先生のクリニックでソーシャルワーカーとして働いている時に、診療所のカウンセラーでDVの被害者でもあった野本さんに出会いました。私も山谷で活動をしていて、山谷で夫からの暴力から逃れて、虐げられて生活している女性と関わってきました。その関わりの中で、ホームレスの母親が公的支援として都営住宅に家族全員で住むことになったが、母娘で都営住宅から逃げ出すというケースに出会いました。夫のDV・性暴力を受けている母子にとってその環境は地獄であったにも関わらず、周囲からその母子の行動は我が儘として非難をされていたという経験をし、身近に親身になって相談する場所があれば何か違ったのではないかと思っていました。
そして、カナダに研修に行った折に、バンクーバーでDV被害者が地域でDVに関する情報を得られ、また、買い物帰りに夫に知られることなくカウンセリングを受けられる施設が整っているのを視察してきました。日本でも病院ばかりではなく地域にそのようなは場所があればいいね、ということを野本さんと話し合っていて、DV防止法が施行された2000年に被害女性就労支援のレストランと相談室を開設しました。当時マスコミにも取り上げられました。そこで、みんなが集まり話を重ねる中で様々な活動が生まれてきました。
DVの問題は社会の問題であるということですが。
地域社会から弾き出された人の集まる寄場を作る構造的な社会問題と同じようにDVの問題も個人の問題に留まらない社会制度・意識に根ざした問題です。被害者個人ではなく私たちが問われている問題であるという視点が重要です。
全世界的に見れば何千年もの間、虐げられてきた女性と子供の歴史があります。家族という名のもとに、妻は男性の使用人という意識が続いてきました。教会の中でも、過去にはふしだらの妻への体罰が認められ、それで精神的なものが救われるとも言われてきました。このようなことは妻だけで夫には言われていません。教会での結婚式でも花嫁の父親から夫への引き渡しをするような式文もありました。また、秋田では嫁叩きという儀式があった等、様々な社会慣習があり、一部は現在でも続いています。
日常生活の中でも、夫は会社で上司から嫌なことを言われても暴力・暴言を振るうことはありませんが、家に帰ってその鬱憤をはらすという選択をしています。大切な人程守るべきなのに、家庭の中では何をやってもいいといった風潮があります。DVに関連する法律はできたが社会的意識がまだ変わっていません。
これに対して、現代では妻の方がヒステリーを起こして強いということを言う男性がいます。しかし、PTSDが解明される中で、それは女性が社会や家庭で様々な抑圧を受けた結果のセルフディフェンスであると言われています。DVの夫婦で個々のカウンセリングをすると、抑圧をしている夫は普通に見えて、長年抑圧を受けている女性が異常とみられやすいと言われています。
女性が受けてきた精神的虐待は過程が見えづらく、心身に与える悪影響は大きいにもかかわらず、肉体的な虐待に比べて社会的な共感が得られにくいところがあります。社会的な共感がなければ、被害女性に対して「もう少し頑張れば」とか「もう少し美味しい食事をつくれば」と言ったように女性を非難する目でみてしまうことになります。そして、社会的な共感がなければ、カミングアウトしても二次被害が生じています。また、社会的な共感がPTSDの予後の結果に医療以上によう良い影響を与えるということが解ってきています。DV被害の女性を地域社会が受け入れて被害者に共感する社会になることが重要だと思います。
アジアを初めとしてDVに対する対策はどのようになっていますか。
アジアでは台湾や韓国等のDV法は加害者を罰する規定があります。その中で収監もしくは加害者の更生プログラムへの強制的な参加を課しています。この規定があることで、被害者ではなく加害者が悪いということが明確になります。一般的にDVが問題となる場合、男性は恋愛関係にある時には優しく、結婚して同居するようになった時に怒鳴るようになり、被害者の中には優しい時の男性と怒鳴る男性がいて、被害者が「自分がいたらないからだ」という理屈で自らを責めてしまいがちです。法律で加害者を罰することで、悪いのは加害者であること明確にできます。日本では、任意の更生プログラムしかなく、この加害者責任が曖昧となってしまいます。
また、台湾ではDV関連の政府予算が日本とは比べ物にならないくらい多いのです。海外企業のCSR活動対象に中でジェンターベーストバイオレンス(SGBV)への優先度が高く、そこには、これが家庭の問題ではなく社会的な問題であるという意識があります。
さらに、日本では行政設置のシェルターは、最初、売春防止法で使われていた施設を流用しましたが、デンマークでは王室が宮殿をDVのシェルターとして提供しています。
2023年10月、JICAの課題別研修「ジェンダーに基づく暴力の撤廃」にて18カ国の担当官がSaya-Sayaに視察に来られ、ワークショップを行いました。
ここからはSaya-Sayaの具体的な取り組みについて教えていただきたいと思います。DVの問題は社会の意識に根ざした問題であるとのことから、被害者に寄り添っていく活動にとどまらず様々な活動をなさっていますが、まず、相談活動についてお話を伺えますか。
相談活動は設立当初から取り組んできています。コロナ禍の2020年3月に相談件数が激減しました。その原因は夫の在宅勤務で、家の中で声が聞こえてしまうので妻が電話をできないのではないかと考え、LINEでの相談を受け始めました。
生活支援活動とは具体的にどのような活動をなさっているのですか。
私たちの活動のゴールは自分らしく生き生き生きることです。縛られた関係ではそのゴールは達成できません。
その環境からまずは離れるためにステップハウスを6軒ほど用意しています。行政の施設では、ペット同伴や大きい子供の同伴では入居ができません。ペットや大きい子供がいるから家から逃れられないケースもあり、これらに対応できるようなステップハウスを用意しています。ステップハウスはほとんどいっぱいの状態です。ネットカフェに寝泊まりしていた若い女性が入居してきて、古い建物のシェルターであっても、「久しぶりに安心してぐっすり寝むれた。」とよく言われます。入居者には日常生活を取り戻す必要があるので、ステップハウスとしては通常のマンション等の住居が望ましいのです。
生活支援として、生活保護の受給申請の同行、婚姻費用分担金の請求の為の弁護士の紹介と同行、離婚訴訟等では書類を書くお手伝いもします。
また、子供を地域に繋げる手助けをしたり、ケースによっては子供セラピーをしたりします。
ステップハウスの室内です。
被害女性の自立支援プログラム燦(SUN)について教えてください。
女性は出産・育児をやりこなせてきた人が多く、元々は、生活力がある人が多いと思います。自尊心を取り戻し、自分がやりたいことが解ったら働くことは十分できます。
被害女性はすぐに働くのはPTSD等の後遺症があって難しいので、まずは安心安全な環境で、精神・肉体面を支えるプログラムに参加してもらいます。その後外資系企業等がバックアップしている就労プログラムで仕事のための面接やワークショップに参加します。調理師免許や、社会福祉士・介護士等の資格を取得して仕事を見つける人も結構いらっしゃいます。また、就業が難しくて生活保護を受けたとしても、地域でその人の居場所を見つけて自分らしい生活できることをプログラムのゴールとしています。
左から自立支援プログラム燦の「アートセラピー」「エンパワメント講座」「燦工房」の様子です。
DV被害にあった女性と子供のための支援プログラム凛の一つとして『びーらぶプログラム』がありますがどのようなものですか。
『びーらぶ<Beloved>プログラム』は「あなたは皆に大切な存在だよ」「愛されている」というメッセージをこめて名付けられました。被害女性とその子供を対象として、全国的に様々な地域で行われているプログラムです。母親と子供が別々に、同時並行的に暴力の構造を伝え、何が暴力となるかを見極め、事例を通じてコミュニケーションで問題を解決するスキルを学び、自分が大切な存在なのだということを理解してもらいます。この集まりの中で、孤立していた母子が自分だけではなく仲間がいると知ることが力になります。
びーらぶの開催時の説明会の様子です。
『びーらぶオレンジ』というプログラムもありますが対象が違うのですか。
『びーらぶオレンジ』は『びーらぶプログラム』の対象を児童養護施設の職員と児童を対象としたプログラムになります。『びーらぶオレンジプログラム』ではロールプレイを通して子どもと職員が相互の関係を話し合いで解決していくことを練習していきます。取り入れた後に子どもとの関係が変わったと職員の方々から喜ばれています。
他に凛の活動として子供のためのプログラムもあるとのことですが。
『てらこやミモザ』は子供のための居場所対策で学習支援もしています。学校に行けない子供の代替え登校場所ともなっています。毎週火曜日に開催していて、学生のボランティアも参加している。
『思春期ワーク』はVD被害の母子の小学校高学年から高校生までを対象とした2泊3日のワークショップで、クリスマス、夏休みに海や山にいきます。女性と子供の夏ワークは夏休みに母と子が一緒に参加し、母親は染め物等、子供は虫取り等各々のプログラムに参加します。
また、『カフェみもざ』は就労支援として行っています。
『てらこやミモザ』の食事の準備風景です。この日は麻婆豆腐でした。
『カフェみもざ』の店内です。
凛夏ワークの様子です。
予防教育としての『チェンジ』とはなんですか。
中学高校生間のアビューズラブ対策としてロールプレイや講習を通じてDV問題を認識してもらうためのプログラムが『チェンジ』です。中高生を対象で最近は小学校からも開催の希望があり様々な公立学校で開催されています。社会の問題として解決していくためにも必要だと思いますが、私立では学校によっては問題が明らかになるのを嫌って断られるケースもあります。韓国では法律で学校においてこの問題を教育するように義務付けています。講習会の前後でアンケートをとるとDV家庭や男女間の性暴力が明らかになることがあります。
支援者の教育にも力を入れていると聞きましたが。
支援者養成講座を開催しています。各種プログラムの支援者、相談員を養成する60時間の講座を受けています。相談員30名、『びーらぶプログラム』のチーム、就労支援プログラム等も含めろと100名程度のスタッフで運営されています。
コロナ禍で相談件数が増えたとのことですが。
コロナ禍で相談が増えたのは、DV自体が増加したというよりも、LINEというツールが増え、時間も増加したことによってカミングアウトし易くなったことが要因である考えています。全体的にも、国の体制が整い、社会的雰囲気もカミングアウトし易くなったことでもともと有ったDVのカミングアウトする人が増えたのではないかと思います。とにかく潜在的には4人に1人が対象者ということですから。コロナが終息してきても、相談件数は減っていません。
DVの現状と課題についてお聞かせください。
まず、事業資金面の課題があります。国や民間の助成金からDV相談の費用に充てていますが毎年申請することが必要です。2020年、パイロット事業の時から国からの公的補助金は出ていますが、台湾などと比べると圧倒的に少ない現状があります。
また、最近は健康保険証の発行問題等、女性を守る手段が複雑化されて男性から逃れるのが以前に比べて難しくなっています。このことは、マイナカードに保険証を紐づけることでさらに困難にさせています。
DVの質が変わり暴力から精神的な支配洗脳と見えないものが増加しています。DVを女性自体が気づかず、人から指摘され、あるいはネット情報から気が付くケースもあるとのことです。よって、社会からのメッセージを発信するのも重要です。外国のドラマでは女性がはっきり意見を言っているのをよく見ますが、日本のメディアでも女性が自分の意見を出すような状況を多くする必要があると思います。
男女の社会文化が変わり、女性も決定権のある場にもっと参加したり、プロセスを重視する制度が必要なのではないかと思います。地域社会では暴力はどんなことがあっても加害者の選択責任であり、物事は暴力なく解決できることを明確にする必要がある。
身近でDVが起きていると感じた時どのようにすればいいのですか。
まず専門窓口に相談して、気持ちの整理をしてください。初期段階であれば、お互いにダメージを低く抑えられる可能性があります。地域には様々な窓口があるし、被害者の気持ちと決断に沿って動くことを基本としていますので、気軽に相談してください。。
この活動をして良かったと感じる時はどんな時ですか。
関わってきた女性が自分自身を取り戻して、自由に社会で道を見つけて力強く進み始めた姿を見た時にやっていて良かったと感じます。そして、それらの方が今度は支援者として一緒に活動していける場合も嬉しく思います。