愛の奉仕活動紹介

愛の奉仕活動紹介: Vol.23 カリタス翼

2025年01月20日

「カリタス翼」訪問レポート

今回は、文京区本駒込のカトリック本郷教会信徒会館4階にある「カリタス翼」を訪問させていただきました。カリタス翼は公益財団法人東京カリタスの家が運営する、児童福祉法にもとづき、主に発達に偏りや遅れのある就学児童のための放課後等デイサービスを提供する施設です。東京カリタスの家は1969年に白柳大司教(後に枢機卿)を中心に4名のボランティアによって発足され、現在に至るまでに、ボランティアによる活動(家族福祉相談室・ボランティア開発養成室)に加えて、発達障害のある児童のための支援施設「子どもの家エラン」、創作やグループ活動を通して障がいのある方々の自立を支援する地域活動支援センター「みんなの部屋」、そして「カリタス翼」の3事業を立ち上げて運営してきた公益財団法人です。現在の理事長は菊地枢機卿で、東京教区ニュースのコラム「カリタスの家だより」でご存じの方も多いと思います。訪問当日はクリスマスパーティーが予定されていました。カリタス翼の管理者兼児童発達支援管理者の向井さんにお話を伺いました。

カトリック本郷教会の聖堂です。

 

カリタス翼は本郷教会の信徒会館の4階にあります。

 

インタビューにお答えいただく向井さんです。

カリタス翼は児童福祉法にもとづいて放課後等デイサービスを行う施設ということですが、児童福祉の中での位置付けはどのようになっているのでしょうか。

戦後の障害者の福祉政策は傷痍軍人への支援から始まったと言われており、大人の身体障害者が最初のその主な対象とされてきました。地方自治体ベースの就学前の障害児支援はありましたが、就学後は専ら文部科学省の管轄として特別支援学校・学級等の学校における対応が中心となっていました。しかし、児童の障害に対する知見と関心が深まり、また、女性の社会進出にともない障害児をお持ちのお母さんも社会で働くことができる環境整備が求められるようになりました。そのために、放課後等に障害をもったお子さんが過ごせる場所が必要ということで、2012年に児童福祉法で児童発達支援事業や放課後等デイサービスが国ベースで法制化されました。

 

子どもたちの部屋です。これからクリスマスパーティーの準備が始まります。

 

文京区で第一号の放課後等デイサービスとのことですが、カリタス翼が設立された経緯を教えていただけますか。

東京カリタスの家では文京区関口にある東京カテドラルのカトリックセンター内で設立初期より障害を持ち困難をかかえる子どもと母親への支援活動を様々な形で行なっていました。1970年に「子どもクリニック」開設、1974年に「子ども相談室」へと名称を変更し、後に文京区から助成を受けながら区内の自閉症児の療育拠点としての役割をになうことになりました。2012年に児童福祉法の改正がおこなわれて障害のある学童を対象とした放課後等デイサービスの制度が設けられ、区からの意向もあって2013年に放課後等デイサービスに移行しました。そして、事業所も岡田大司教様のご尽力によって本郷教会信徒会館4階へと移転しました。

本郷教会の銘板です。

カリタス翼に通うのはどのようなお子さんなのですか。

ここに来られるのは小学生(7歳)から高校生(18歳)までの身体、知的、精神の障害をお持ちのお子さんになります。自閉スペクトラム症等のいわゆる発達障害は精神障害に含まれるとされています。現在、ここに通う子供達の中には、海外留学まで経験した自閉スペクトラム症のお子さんや、ダウン症のお子さんなど様々な方がいらっしゃいます。看護師の看護や特別な介助を必要とする重度の障害のあるお子さんはここでは対応できないので、専門的な施設に行くことになります。

発達障害というのはどのような障害なのですか。

発達障害は神経発達症とも言われ、成長の過程で脳の発達が何らかの理由で極端に偏っていて、社会とうまく適用ができない状態です。神経発達症には自閉スペクトラム症、 注意欠如多動症、知的発達症等が含まれ、発達の中で偏りが見られ、得手不得手が極端に現れると考えることができます。これは障害というよりも、左利きの人が右利き優位の社会の中で暮らしづらさを感じることと似ています。しかし、違いが大きすぎると当人が社会の中で暮らしづらくなるだけでなく、それが原因で精神的に病んでしまうことになります。

つまり「障害」とは社会との接点で生まれるもので、社会の問題として考える必要があると思います。例えば、自閉スペクトラム症のある方の感覚が過敏で満員電車で人とぶつかると極端に痛みを感じで満員電車に乗れない、電車に乗るのが好きだが、アルコールの匂いに敏感で新幹線に乗れないという方もいます。本来自閉スペクトラム症のある方は、予測可能な世界を好み、真面目で規則的なバターンを好み、秩序を守る律儀な方が多いにもかかわらず、このような状態の為に社会の接点の中でなかなか力を発揮できないで苦しんでいる人が多いのです。そのような人を周囲から空気を読めないとかマイペースな人というようにマイナスのイメージで捉えられてしまいます。でも、それって彼らだけの問題なのでしょうか。

放課後等デイサービスの目的

一般的には、放課後等デイサービスは、法律上では学童期の障害児を対象として放課後や夏休みに生活能力向上のための訓練を提供するとともに、放課後の居場所づくりのためにあります。カリタス翼では共に生きるという考えを重要視しています。私の思いとして障害と共に生きるということがあります。障害のある人がその弱さを克服するよりは、それを持ったままそれと共に生きるということだと考えています。人の弱点は強みと表裏一体であるとも言われます。例えば、自閉症スペクトラムの人が、一方では「融通が効かない」、「こだわってしまう」ということは、「一つの事を深める」こと、「こつこつ丁寧にやり遂げる」ということに繋がります。そして、それは生きていく上で大切なことでもあります。一人一人が違っていていいのではないかと思います。

得意なことを大事にする。その子どもが得意なチャンネルを使ってできたという体験をしてもらうことを大事にしたいと思っています。それを通じて自分はちゃんとできる、信頼してくれている大人がいると感じてくれればいい。カリタス翼に来れば、自分のことを理解してくれる人がいて、みんなと過ごす中で達成感が得られると感じてもらうことが大切で、そのような居場所にしたいと考えています。

放課後等デイサービスの問題点について教えてください。

放課後等デイサービスの制度が始まってから、最近では都内だけでも何千ヶ所と開設されています。しかし、その中には児童を放任しているところがあると聞きます。元々そのような放任された状態が苦手な子どもは、やることがなくて自傷行為や悪戯等の問題行動が増えてしまうという結果を招いてしまいます。障害のある子供が本当に自分らしくいられる場所を提供するには、高い専門性と倫理観を持った人がケアする必要があります。放課後等デイサービスはこの観点がないと姥捨山になってしまう恐れがあります。たしかに、親にとって預け先があるのは良いことかもしりませんが、障害のある子どもからみたらどうなのかを考える必要があります。一方では、学習塾のように一方的に課題をこなさせようとするところもあり、バランスの良い運営が必要であると考えます。

ここでのプログラムの内容について教えてください。

まず、子ども達の通って来る日ですが、週一回の子どもが7割、週2回が2割、特に必要な子どもの場合は週3回の場合もあります。現在、小学生から高校生まで述べ32名の子どもが登録されています。

通所してくる学童は、開所している時間であれば何時に来ても良いことになっています。文京区の場合、王子特別支援学校や近くの支援学級のある小学校がここから離れているのでヘルパーが付き添って来ています。

親御さんからおよその来所時間は前もって確認をしておき、その子供に合わせたプログラムを毎回作成しています。ここの場合、様々な障害の子供がいて、さらに年齢の幅も大きいので同じことを皆でやることは難しいのです。個別のプログラムを組んで、最後の集まりを一緒にするとか、今日みたいなクリスマス会は一緒にやるとか工夫をしています。

個別のプログラムとは、例えばここに来てまず宿題を終わらせる子供がいたり、絵を書くのが好きでまずお絵描きから始める子もいたりします。個別スケジュールは文字が読める子はシステム手帳に予定を書いて置いてあげ、また、文字を読めない子供にはイラストをカードにして順番にわかるようにしておいて、それらを確認するところから始めます。一人一人の活動に加えて、スケジュールの中に小グループで一緒にできるようなものを入れるようにしています。このプログラム作りは大変ですが、カリタスの特徴の一つになっています。

このような、個別プログラムを通じて、その子供が得意なチャンネルを使って自分で出来たという体験をしてもらい、自分はちゃんとできる、自分を信頼してくれ、見てくれている大人がいると感じてくれればいいと思います。

言葉の代わりに写真カードで欲しいものを要求するお子さんもいます。

 

子ども達の学習スペースです。

 

手作りの教材です。

教育機関や他の福祉施設との関係はどうなっていますか。

こちらから学校に様子を見にいくこともありますし、夏休みに学校の先生がこちらに見にくることもあります。また、組織的には、文京区内の障害児ネットワークや障害児支援子供専門部会を通じて医療・教育・福祉の各機関と連携を図るようにし始めています。

どのような方が職員として働かれているのですか。

現在、職員は常勤4名とパート、後は上智大学や学習院大学から実習生が来てくれています。現在は若い職員が多いのですが、大学で社会福祉、心理を専攻した人や兄弟に障害者がいる人等、熱意のある方々が在籍しています。「子どもの家エラン」の場合は未就学児ということで専門性を必要としているとおもいますが、カリタス翼の場合は子ども達が実際に生きていく社会と同じように色々な方にも参加してもらうほうが良いと考えています。例えば、本郷教会の信徒の方もボランティアとして参加していただいています。

 

お揃いのTシャツを着た若いスタッフの方々です。
子ども達にとってはお兄さんやお姉さんのようでした。

 

親御さんとの関係はいかがですか。

基本的には年2回面談するようにしています。今は親御さんとラインで繋がり、相談をいつも受けるようにしています。先日も親御さんから、最近クリスマスのCMとか話題がでるので、子どもが翌日クリスマスになると思い込み、実際クリスマスが来ないとパニックになって困っているという相談を受けました。この子はカレンダーを読むのが苦手な子で、職員が特別な巻物のようなカレンダーを作って先の見通しを理解する練習をすることでクリスマスの日まで待てるようになっていました。他には、通学の問題や卒業後の地域の相談窓口の紹介などもします。

地域社会との繋がりはどうでしょうか、また、本郷教会の信徒会館を利用していますが本郷教会との関係はいかがですか。

コロナの前は本郷教会のバザーに参加させてもらっていましたが、そのような行事がなくなって、地域と交流機会がなくなってしまい、地域との接点が少ないことが炙り出されたと考えています。今後の課題として、地域とのどのように関係を持つかを考えていく必要があると考えています。近隣住民からの障害者施設への理解は本郷教会のおかげで得られていると思っています。大変ありがたいことです。

コロナ禍で相当影響を受けたと思いますが、現状はいかがですか。

コロナ禍で合宿ができなくなりましたが、現在は復活しています。その他の活動も元に戻りつつあります。この間、活動できなかったことでそれらの活動の重要性を再認識したと思います。

障害児の現状はどうですか。

社会で障害に対する理解が少しずつ広まってきたことによって、子ども達が無理解から傷つくことが少なくなり、他害が激しく対応が難しい人が少しずつ減少したように思います。しかし、子どもに対する居場所は整備されてきてはいるが、その制度の網から漏れてしまつている子ども達が一定数います。知的に障害に入らないがボーダーにいて普通学級に通学している子ども達が支援を受けず一人で頑張っているけど、卒業した後行く場所がなくなりひきこもりになってしまうケースに時々遭遇します。本来は、そうなる前にその人を受け入れる場所が必要であると思います。

この事業に関わっていてよかったと思う瞬間はどのようなときですか。

子ども達の成長に出会えた瞬間ですね。例えば、味覚過敏の子が皆なで作ったカレーを食べることができたと喜んで報告しに来た時とかですね。また、卒園していった若者が顔を出して現状を報告にしてくれた時です。職員の若い人たちが頑張っていること見る時も嬉しくなりますね。

 

インタビューの後、クリスマスパーティーの準備のため、子どもたちがスタッフのお兄さんやお姉さんとケーキを焼いたり、グラタンを調理したりしている所を見学させていただきました。皆なで楽しそうにわいわい話しながら料理をしていました。

クリスマスパーティーのメニューです。

 

ケーキをスタッフのお兄さんと作っています。

 

ケーキをレンジに入れてハイポーズ。

 

グラタンに入れるウィンナーを真剣に切る子供とそれを見守るスタッフです。