愛の奉仕活動紹介

愛の奉仕活動紹介: Vol.27 みんなの部屋

2025年03月21日

「みんなの部屋」訪問レポート

今回は、東京カテドラル構内のカトリックセンター地下1階にある「みんなの部屋」を訪問させていただきました。「みんなの部屋」は公益財団法人東京カリタスの家が運営する、創作やグループ活動を通して障がいのある方々の社会での活動を支援している地域活動支援センターです。東京カリタスの家は1969年に白柳大司教(後に枢機卿)を中心に4名のボランティアによって発足され、現在に至るまでに、ボランティアによる活動(家族福祉相談室・ボランティア開発養成室)に加えて、発達障害のある児童のための支援施設「子どもの家エラン」、主に発達に偏りや遅れのある就学児童のための放課後等デイサービスを提供する「カリタス翼」、そして「みんなの部屋」の3事業を立ち上げて運営してきた公益財団法人です。現在の理事長は菊地枢機卿で、東京教区ニュースのコラム「カリタスの家だより」でご存じの方も多いと思います。みんなの部屋の施設長は奥野常務理事で、他に相談員の根本さんと江川さん、事務兼作業指導員の井口さん、看護師の高島さんが担当されています。当日は、根本さん、江川さん、井口さんにお話を伺いました。

東京カテドラル関口教会の構内です。

 

みんなの部屋はカトリックセンターの地下1階にあります。

 

インタビューにお答えいただく、根本さん、江川さん、井口さんです。

みんなの部屋は地域活動支援センターということですが、地域活動支援センターとは社会福祉の中でどのように位置付けられた施設なのでしょうか。

地域活動支援センターは障害者総合支援法において、「障害者等が通所して、創作的活動又は生産活動の機会を提供し社会との交流の促進する施設」とされています。地域活動支援センターはその規模が大きい順にI型からⅢ型まであり、そのタイプは通所者の規模に応じて決まり、配置人員数、資格者、その期待される機能が異なってきます。その中でもⅢ型はいわゆる既に活動をしていた民間の共同作業所が地域活動支援センターの枠組みで取り入れられたものとなります。つまり、かつて一部の障害者の家族や関係者が障害者の人達によって、障害者が安全に昼間に過ごし、簡単な作業をして工賃を得る場所が作られるようになりました。それが共同作業所として全国的に様々な場所で始まり、これを公的な制度に取り入れたのがⅢ型ということになります。

開催日には部屋の前にサインボードが出されます。

みんなの部屋はどの種類での役割はなんですか。

みんなの部屋は障害の中でも特に精神障害の方を支援するⅢ型の地域活動支援センターです。精神障害者の方が病院を退院後に医療デイケアに通われ、その後家庭復帰していくのを社会福祉的に援助することになります。医療と社会福祉の両輪の内で社会福祉側の一つを担っていると思います。通ってこられるのは社会に復帰するところまで回復された方になります。

この分野は、社会福祉の中でも主に精神保健福祉士が担当する分野となります。家庭に戻った後に、いきなり社会に出ることは困難な場合が多いので、行動範囲を少し広げていくことを支援することになり、就業支援への前段階という性格もあります。医療デイケアとは違い、コミュニケーションの場所であるとともに、地域で行く場所があるという帰属意識を持つことにも役立っています。また、家庭内の人間関係にも、夫婦関係でも言われる様に日中に少しでも離れていることで良い影響を与えることもあります。家族内の人間関係においても日中少し距離を取ることでよい関係を保つことにつながることも考えられます。生活のリズムを整えるために来ている方もいらっしゃいます。この施設は社会復帰のための福祉的な意味では最初の窓口となります。

金曜日の午後、共同作業所ではボランティアの方々の作業がされていました。作業所は地下ですが、陽の光が燦々と入ってくる設計となっています。

 

キッチン・休憩室となる部屋です。

東京カリタスの家の事業として始められた経緯について教えてください。

障害者の方が集まれる場を設立当初から提供をしていました。そして、1978年に活動資金等を得るために東京カリタスの家を利用しているボランティアの人たちと障害者の方が古切手の収集を始めたのが作業グループの始まりだと聞いています。その後、クリスマスカード等を作り、時には下請けで簡単な物を作る作業も行ってきました。当時、障害者福祉は今ほど進んでおらず、障害者の共同作業所は障害者を支援する関係者が自発的に障害者の人たちの居場所とみんなで作業出来る場所を作ろうという動きの中で生まれてきました。私たち施設もその中の一つといえます。このような民間施設が後追い的に行政からの支援を受けられる様になり、私たちの共同作業所も2006年には文京区からの共同作業所として助成対象となりました。そして、2011年にはみんなの部屋も地域活動支援センターⅢ型として制度の枠組みに入りました。制度的な変遷はありますが、私どもの考え方は当初より作業やグループ活動を通して、癒しと励ましを与えあうような人と人との関わりの場を作ること、そしてその人の状況に応じた新しい活躍の場へ巣立っていくことを目的にしています。 

ここでのプログラムはどうなっていますか。

みんなの部屋の活動日は月曜日から水曜日、金曜日から土曜日となっています。まず、月曜から水曜日はお昼を挟んで午前10時から午後3時までは作業活動をしています。金曜日は午前中開催で、交流日として利用者でゲームをしたり、近くに散歩に出たりして利用者間で親睦を図る日にしています。実は、コロナ前までは、金曜日に単身生活の男性向けに教育的な調理会を行っていました。少しでも自活の足しにしていただきたいという気持ちからです。しかし、利用者の女性比率が95%以上になり、交流をメインにした食事会に変更しようかと言っていたらコロナになって出来なくなり、現在のように変更しました。作業の中心がデザインを含む創作や、手芸や洋裁などなので、女性の方が興味を持って来られる様になっています。土曜日はオープンスペースというプログラムを持たない日としいていて、『必要に応じて』職員との個別面談も行っています。この土曜日の様な活動が一般的な地域活動センターで行われているプログラムだと思います。その意味で、作業活動が3日間あるプログラムは地域活動支援センターとしては特色のある点だと思います。私どもの施設は毎日「通所して交流するだけ」では物足りないけれど、就労支援型の施設では難しいという中間的な障害者の方には適していると保健師さんや他の関係機関からよく言われます。また、オープンスペースだけでは人間関係が作りづらく人もいて、作業があることで人間関係が作りやすいという点を評価する方もいます。

ここの創作活動の特色として、カードや手芸等の創作物については、利用者が自分のやりたい創作物を作ることが出来るということがあります。他の施設では皆なで一つのものを作るというパターンが多いですが、ここでは一人一人が作るものが違う場合も良くあります。一方で、個別の創作作業で利用者間のコミュニケーションが減るデメリットを残り2日間の交流日で補っています。また、利用者の方が継続的にここを利用されるにつれて、やりたい創作内容を提案してくる様になります。その提案を話すことも自分の考えを具体的に人に伝えるという力の回復の重要なステップだと思います。

ここでの創作活動には少しですが工賃が支払われ、それが利用者の方への社会参加意識を向上させる役割を果たしていると思います。

イースターエッグも作っています。

 

カード作成でとても細かい部分はボランティアも手伝います。

ここから職員の方が外に出ていく活動もあるとうかがいましたが。

はい、施設に通所されている方の支援で、訪問や通院、通所などの同行を行うことがありますが、基本は自立した生活を送っている方が多いので、それほど頻繁はありません。また、当施設に登録通所している方以外の通院などのサポートを行う文京区精神障害者地域生活安定化支援事業という事業をお受けしており、地域の保健師の依頼のもとに職員が外に出て、担当する患者の方と一定の信頼関係を築き、定期的に通院同行等の支援活動を行っています。現在は6名の方を担当しています。 

ここに通われている方の現状についてうかがえますか。

ここに通われる方は文京区の保健師からの紹介でこられる方が多くなっています。個人や病院から問い合わせがあっても、保健師の方に話をしてくださいとお願いをしています。これは、私どもが小さい組織なので、適切な支援を出来る限り地域の保健師と一緒に行いたいという思いからそうしています。

現在登録している方は約20名で、内男性は1名となっていいます。平均年齢は40歳中頃で、20代から70代まで幅広い年齢層の方が通っています。また、ご家族と同居されている方が比較的多いのがここの特徴かもしれません。コロナ以前は遠方から通われている方もいらっしゃいましたが、コロナで来られなくなり、現在では地元の方が90%以上を占めています。また、利用者の方の中には30年以上ここに来られている方もいて、比較的長期に継続している方が多いと思います。さらに、ここから就労型の施設にステップアップされる方もいらっしゃいます。

利用者は毎日ではなく、自分の希望の回数で通ってくることが可能なので、常時6名程度の方がおられるような状況です。最近、希望者が増加してきて今年くらいから本格的に動いてきている様です。

どのような方が職員として働かれているのですか。

ここの職員として精神保険福祉士2名、非常勤で看護師が1名、事務と創作担当している職員1名の常勤3 非常勤1名で構成しています。

ボランティアの方もいらっしゃるのですか。

創作活動等をお手伝いいただいているボランティアが5名いらっしゃいます。コロナ前には、ボランティアの方が利用者の方と一緒に作業のお手伝いをしていただいていたのですが、コロナ後から作業スペースを密にならないよう減らしたのでそれが出来なくなりました。現在、ボランティアの方には縁の下の力持ちとして金曜日の午後に作業補助としてパーツなどを作っていただき、あるいは、デザインの考案など難易度の高い作業等で協力してくださっています。

ボランティアの方々が様々な制作物のお手伝いをしています。

地域社会や他の団体との繋がりを大切にしているとのことですが。

東京カテドラルの売店「セントポール」で常設のみんなの部屋の販売コーナーを置かせていただいています。コロナ禍前、教会との繋がりは大きなものがありました。毎年、9-12月まで多くの教会のバザーへお伺いして、作品の販売をさせていただいたり、キャラバン活動でお伺いしたりしたおりに、様々な支援をしていただきました。コロナ禍で様々な活動が中止になり、現在再構築を図ろうとしています。地元では文京区の他施設との連合会に参加して、合同のボーリング大会・バスハイクあるいは講演会などをしていました。最近では、文京区の他の施設に創作物を置いてもらったりもしています。グループホームからの利用者がいる場合はその施設とも繋がりを持つ様にしています。

東京カテドラル売店「セントポール」内のみんなの部屋コーナー

コロナ禍で相当影響を受けたと思いますが、その経験から何か変化しことはありますか。

まず、前に述べました教会のバザーが中止になり創作物を販売する機会が減少したことがあります。今年も数ヶ所に参加するに止まってしまいました。今後、教会とのつながりを再構築していきたいと考えています。バザーなどの販売の場に興味を持つ通所利用者もおりますので、そういった方に、自分の作品が実際に売られている場面を見てもらったり、お客様の反響を見てもらったりしたいと思っております。希望する利用者に販売の場に立ち会ってもらいたいと思います。購入者とのコミュニケーションをとることは彼らのモチベーションアップにもつながりますのでその様な機会を是非作っていきたいと思います。

コロナ禍では、遠方から来られていた利用者が、県境の移動禁止で通えなくなり、地元の施設に変わられた方もいます。また、コロナ禍でも電話相談だけは続けていたので、電話だけで繋がっていた方が、今でも電話の対応になっている方もいます。

作業をする時の他の人の会話が時々トラブルの原因になっていましたが、作業時間は作業に集中し、交流の時間にしっかり話をするというルールが作られて、トラブルが減るということもありました。

施設を運営していて現在直面している課題はなにかありますか。

利用者支援という点では、家族の高齢化にともない、経済的には問題がなくても社会との関わりが少ない利用者が、一人残された場合に財産や生活の管理について、成年後見制度はありますが、施設の守備範囲としては、あくまで「本人の精神科的援助」ですので、ご自宅の財産問題や同居両親の介護などは直接の援助対象ではありませんし、その分野はその分野の援助の方がいますが、行きがかり上、様々な支援に同行同席する場合があります。

施設内の話としては人手不足が挙げられます。男女年代関わらず人手不足となっています。福祉業界は賃金が低いため、男性は特に就業希望は少なめです。最近では、福祉の学校を卒業した人さえも、男女問わず福祉業界を敬遠する傾向にあります。現職の職員も年齢が進んでくる中で事業の継続性について不安があります。

この事業に関わっていてよかったと思う瞬間はどのようなときですか。

コミュニケーションに不安のあった利用者の方々が、当施設の活動を通して相互に交流を深め、作業中のチームワークが向上したり、決められた工程をこなすだけでなく、自らの言葉で作品がよりよくなるような提案ができるようになったりした様子を目の当たりにしたときなどは、一緒に活動し支えてきた身としてとてもうれしく感じます。また、創作活動等で培った関係性を発展させ、食事の時間や放課後にお互いの趣味の話や友人家族とのことなどを話したり相談しあったりしているシーンや、作業終了後も一緒に仲良く帰宅している姿などを見たときは、利用者さんのコミュニケーション力の向上を実感し、単調に過ごしているかのような時間の一つ一つがゆっくりと結実へ向けて変化していることを感じ、支援する側としても一日一日の援助の大切さを感じます。

また、当施設を卒業し、就労した利用者の方から、現在の職場で活躍の様子などの話を伺えた時などは、送り出した身として大きな喜びを感じます。