愛の奉仕活動紹介
愛の奉仕活動紹介: Vol.29 ロゴス点字図書館
2025年05月20日
「ロゴス点字図書館」訪問レポート
今回は東京都江東区潮見にあるロゴス点字図書館を訪問しました。ロゴス点字図書館は社会福祉法人ぶどうの木が運営しています。ロゴス点字図書館は2001年までカトリック点字図書館と呼ばれており、カトリック洗足教会で1953年に誕生してから72年の歴史を持ちます。2001年に社会福祉法人化にともなって施設の名称がロゴス点字図書館となりました。現在は、潮見にあるカトリック中央協議会の日本カトリック会館の1階で活動をしています。法人の初代理事長は岡田武夫大司教様で、現在は菊地功大司教様が就任されています。
当日は、館長の平井利依子さんにインタビューをさせていただきました。
中央の日本カトリック会館と右の赤い屋根はカトリック潮見教会です。
ロゴス点字図書館専用の入り口が会館のエントランスの左側にあります。
ロゴス点字図書館はカトリック洗足教会で生まれたと聞いていますがその経緯について教えてください。
第二次大戦後、厚労省が視覚障害者となった復員兵の社会復帰に向けた教育施設等の援助をカトリック洗足教会の当時主任司祭であった塚本昇次神父様に依頼してきました。塚本師は子供と視覚障害者に関心を持っておられ、信徒の方々と施設での奉仕を始められました。その施設に塚本師から洗礼を受けた視覚障害の小川光一郎さんが教官として働いておられ、小川さんから宣教の為の点訳書が欲しいとの希望があり、塚本師は図書館の設置を決心されました。同じ頃、塚本師から洗礼を受けていた和泉真佐子さんが髙田馬場にある日本点字図書館で点訳活動をされており、和泉さんを通じて日本点字図書館の創始者本間一夫氏に協力を求め、その協力のもとに1953年に洗足教会内にカトリック点字図書館が開設されました。その後、同年7月には、塚本師がカトリック中央協議会布教部長であったとこもあり、施設は麹町にあったカトリック中央協議会の布教部の部屋に移転され、キリスト教に関する点訳書の出版や蔵書の作成を積極的に行い、徐々に専門図書館として評価を受けるようになりました。
インタビューにお答えいただいている平井館長です。
その後、社会福祉法人となって現在に至っているまでを教えていただけますか。
1972年に西尾正二神父様が2代目の館長となり、点字図書館の発展に尽力し、また、視覚障害者団体や図書館の全国組織との連携を図りました。財政基盤の充実のためにチャリティー映画会を始めたのもこの時でした。
1992年には利用者でもあった橋本氏が3代目の館長に就任され、バブル崩壊後の不況下にあって持続的な図書館運営のためには公的支援を受ける必要があると考えました。そこで、カトリックには限定されないという意味を含めて「考える図書館」というコンセプトを打ち出し、当時の岡田大司教(法人設立のための準備委員長)と計画を進めました。東京には既に、髙田馬場の日本点字図書館、東京ヘレン・ケラー協会、日本盲人会連合の点字図書館がありましたが、設立活動が実り2001年に社会福祉法人ぶどうの木が設立認可され、図書館名もロゴス点字図書館と名前を改めて、身体障害者福祉法の視聴覚障害者提供施設に認定されました。この名付け親は岡田大司教(初代理事長)でした。
ヨハネ・パウロ2世に謁見した橋本3代目館長です。
(「ひかりの軌跡-カト点からロゴスへ- 創立50周年記念誌」より)
「考える図書館」の意味はどういうところにあるのですか。
障害者の方々の苦しみは健常者より多くて、それだけ深く人生について考えます。それに応える為の人生の図書館という意味です。
図書館の施設について教えてください。
この図書館は身体障害者福祉法34条に基づく視聴覚障害者情報提供施設として位置付けられています。1階には事務室と書庫と発送や点訳の作業をする部屋があり、2階にはテープの書庫、7階には録音室があります。蔵書数は2025年3月現在、点字図書が2853タイトル・8333巻、テープ図書が3447タイトル・28797巻、CD図書が440タイトル・4479枚となっています。
点字図書の収納棚です。
録音図書の収納庫です。
7階にある録音室です。
この図書館として利用者の方に提供しているサービスはどの様なものがあるのでしょうか。
メインのサービスは点字図書、録音図書の製作と貸し出し業務なります。利用者からは電話やメール、ファックス等、オンラインでリクエストがくるので、それらをここから発送しています。利用者は全国にいますので、来館して閲覧することはほとんどありません。当館が発送する場合、郵送料が郵便約款で無料となっています。
現在、全国の点字図書館、関連施設、点訳グループ等が参加している「サピエ図書館」という蔵書検索サービスがあり、どこの図書館にどの図書を所蔵しているかわかるようになっています。当館でも利用者から問い合わせがあった場合、検索して他の図書館に蔵書がある場合は取り寄せを行って発送、あるいは、コンテンツが電子データである場合はそれをダウンロードして利用者に提供しています。利用者が希望する内容の本を探すお手伝いもしています。
利用者個人が手元に置いておきたい個人的な資料の点訳や音訳(録音)を有料で行っています。例えば、カトリック中央協議会のホームページの記事や修道会だよりを視覚障害の方のために点字にするという依頼があります。この間、ミサの式次第が変更されましたが、その変更部分の点訳もしました。ミサの時の「聖書と典礼」の点字版・録音版は出版するということもやっています。
対面朗読のサービスもやっていますが、対面朗読は公共図書館が歴史的にその役割を担ってきているので当館での利用ももっとPRしていきます。
また、現在は、中途失明の方が多くて点字が読めない方が多いので、点字教室を行っています。これに加えて視覚障害者の為に開発された様々なアプリをスマホで使う方法を直接教えるICT支援も行っています。
地域における公共的活動としては、類縁機関に協力に行ったり、視覚障害者のイベントのお手伝いに行ったりとか、江東区とに協力する活動も行っています。
提供しているサービスの一覧です。
(「ロゴス点字図書館」リーフレットより)
サピエ図書館の検索サービスの案内です。
(「全国視覚障害者情報提供施設協会」作成)
この図書館の利用者の方の現状はどうでしょうか。
当館に登録しておられる利用者は2020年には851名でコロナと高齢化で少し減少して現在では820名程度で推移しています。
点字図書館は利用者の在住の県には一つ必ずありますので、利用者の方はまずそこに登録している方が多く、当館はプラスアルファの必要に応える図書館の要素が強いです。ロゴスだけに登録している方もいらっしゃいます。当館は哲学書とか宗教書を読みたいという方が登録されることが多いです。
北海道の利用者の方が、北海道の公共図書館経由で創世記に関するものが読みたいという依頼がくることがあり、その場合、北海道の図書館が当館の登録を勧めてくれる場合もあります。
近年、利用者の方は後天性の視覚障害の方が断然多くなってきています。その原因の一番はかつては糖尿病でしたが、現在は緑内障による視覚障害となっています。昔は栄養不足による未熟児網膜症が多かったのですが、今は少なくなってきていて多くが後天性の視覚障害となっています。当然、圧倒的に高齢の方が多くなっています。
スマートホン等や専門のアプリの普及が普及しているとのことですが。
視覚障害者の世界ではICT機器は大変有効で、健常者が使用する時より情報収集の恩恵度はかなり大きいと思います。iPhoneでは音声対応が標準仕様にあり、当館ではその利用の仕方を紹介し、役立つアプリをパンフレットを使って紹介をすることもあります。
しかし、便利になる一方で、現在、情報格差が問題となっています。特にお年寄りの方を中心に、まだテープしか使ってない、iPhoneを購入はしたが使い方がわからないという方が多くいますので、利用方法をお教えするのも仕事の一つになっています。また、利用者が聞く録音データもカセットテープ、CD、デイジーデータ等様々な媒体があり、それらをどこまで使いこなせるかという問題があります。若い人は録音データをダウンロードしてスマホで聞くことが多くなっています。
視覚障害者用のアプリの案内です。
(「国立障害者リハビリテーションセンター」作成)
デイジー仕様の再生機です。
録音版と点字版ではどのように違いがあるのでしょうか。
録音版だと、本を自分の勉強目的で利用するは場合、元に戻ったりするのがすごく面倒
です。その点、点字の場合は本と同じように目的とする点字の場所にすぐ行けるので、このような場合は点字版が有用になります。しかし、現在、後天性視覚障害者が多く、2割程度しか点字をきちんと読める人がいないと言われています。しかし、点字の本が読めないとしても、例えば電化製品の説明書やエレベーターとか自動販売機に付いている点字説明プレートを読めるだけで生活の向上の質が上がると思うので、せめて簡単なものを読めるようになるといいと思っています。
コロナ禍を経て何か変化はありますか。
図書館の貸し出し業務自体は、郵送がメインである為にあまり影響は受けませんでした。ただし、利用者の方がコロナで体調を崩されたり、落ち込んだりして登録者数が少し減少しました。
視覚障害者の団体やグループの方たちとの連携はなにかあるのですか。
点字図書館間の連携については様々なことを共同で行っています。地元との関係では、江東区に江東区視覚障害者福祉協会という当事者の団体があって、その代表の方が、社会福祉法人ぶどうの木の評議員になってくださっています。先日、視覚障害者との接し方を江東区の資料館の方に伝える研修を協働で行いました。また、カトリック障害者連絡協議会とも交流があって、機関紙「わ」の点字版を当館で受託製作しています。さらに、地元の江東区の図書館の録音グループが蔵書作りの協力をしてくれています。
点訳や録音、貸し出し事務等で図書館のサービスを支えている方々について教えていただけますか。
ロゴス製作の点字図書と録音図書は全てボランティアが作っています。どの点字図書館もほぼボランティアが作っていて、ボランティアがいないと成り立たなくなっています。このため、ボランティアの養成も重要になっています。点訳の養成講座や録音の養成講座は点字図書館の大事な業務です。今は、ボランティアの方が点訳に30数名、録音に20人弱の方が関わっていて、加えてボランティアグループがグループ単位で登録しているところもあります。点訳も録音も月に1回の勉強会をハイブリッドで開催しています。この図書館で様々な案内の封入作業等をお手伝いするボランティアの方々もいます。
ボランティアも高齢化していて、次の世代の人たちは現役のためでなかなかボランティアの時間が取れないという問題があります。特に点訳には翻訳技術の伝承の問題が出てきています。自動の点訳ソフトがありますが、画像データを読み取りテキストデータ化する必要があり、そのプロセスで校正が必要になります。また、最終的にはボランティアが点字のパソコン画面を見て確認をする必要があります。点訳や録音もパソコンを利用するようになり、作業は楽に早くなりましたが、逆に高齢者にはハードルが高くなるという側面があります。
現在、利用者の方から特に求められていることは何かありますか。
読書というのはすごく個人的なものなので、全体としてというのはなかなか言えませんが、利用者からのリクエストに対して迅速に正確に提供するということに尽きると思います。強いて言うのであれば、先程のICT支援が挙げられます。昨年、国立国会図書館が「みなサーチ」という新しい視覚障害者向けの資料検索サイトをオープンしましたが、利用者が事前に国会図書館に登録する必要があって、その登録が難しくて、当館に問い合わせがありました。当館の視覚障害者の職員が実際に国会図書館に登録してみて、その要領をつかんだ上で教えるようにしました。国会図書館に聞くのは敷居が高いのかもしれません。ちょっとわからないことがあったらなんでも聞けるような施設になれればと思います。
パソコンを視覚障害者の方が使う場合、読み上げ機能を利用するのですか。
音声ソフトがあって、タブを辿っていくと音声で読み上げてくれます。また、ピンディスプレイと言って点が浮き出て点字を表せるデバイスがあり、それにパソコンを繋げると点字に変換してピンが出てきます。視覚障害者の人がパソコンを使えると、ほんとうに便利になります。私たちも点字に変換しなくても、テキストデータをそのまま渡して、読んでくださいということもできます。
このような視覚障害者用の点訳はIBMが昭和終わりくらいから社会貢献事業で始め、平成の初期から段々と実用化していきました。IBMは当時パソコンとソフトを各図書館等に無償で配っていました。本当にその功績は大きかったと思います。現在、当館の点訳は100%パソコン点訳となっています。
点訳や録音をする時に気を付けている点はどこでしょうか。
時々、ヘビーユーザーの方から本に対し出来が悪いというような苦情もあったりもします。当館では質の良いものを早く提供するということに心がけています。質の良さとは誤字脱字脱文がないのは当たり前ですが、点字だとレイアウトの構成が読みやすいとか、音声は滑舌よく伝わるなどは当たり前で、図表や、グラフを言葉でわかりやすく説明する必要があります。ボランティアが文章を作って図の説明をするのですが、これはかなり難しいのです。アマゾン等のオーディオブックでは図表などは一般的に省略されています。情報を受け取る必要がある研究者等にとってはグラフ等が正確に伝わらないと仕事に支障が出てしまいます。音訳での読み方について、例えば朗読とかでしたら、読み手としての個性に魅力があってそれを聞いていますが、点字図書館で作る場合、読み手は黒子であるべきで、自然な抑揚はあった方がいいと思いますが自分の個性をアクターのように載せる必要はありません。最近、利用者の中には合成音声でいいという方もいます。
コロナ前まで毎年映画会を開催していましたが、今はどうなっていますか。
映画会は昭和47年に西尾館長が就任し、まず財政不足を補うために始めました。それ以降、コロナ禍前まで毎年開催していたのですが、コロナで中止せざるを得なくなりました。この映画会では映画に視覚障害者のために音声ガイドをつけて上映をしていました。視覚障害者の方も楽しめる映画会となっていたのです。今では、一般の映画に音声ガイドがついていて、視覚障害者の方がスマホと同期して普通に映画館で音声ガイドが聞けるようになっています。さらに、利用者の方が聞く、シネマデイジーと言って、シネマのサウンドトラックに音声ガイドをつけた録音CDが著作権的にクリアになり、視覚障害者の方がそれで映画を楽しむことができるようになりました。映画鑑賞に対する視覚障害者への保障が出来てきたこともあり、映画自体の鑑賞から別のものに変えていこうとしています。映画会の開催とチケットの販売を通じて教会との交流が出来上がっていたので、今後は別の企画を通じて教会との交流を図れるようにしたいと思います。
現在は、ロゴスの文化教室を開催しています。これはロゴスになってからすぐに哲学教室みたいな感じで始まり、その後ずっと続いています。コロナの時に一旦中断しましたが、その後、音声配信の文化教室、去年はハイブリッドで日本カトリック中央協議会のマレラホールで開催しました。
この図書館を運営していて、現在直面している課題はなにかありますか。
当館だけの問題ではありませんが、図書館として収益は産まず、公的な助成金と支援者の皆様の寄付に頼ることが大きな課題です。今後、財政が厳しくなり不足分を寄付で補っていく割合が増加すると、財政的に不安が生じますので、より良いサービスを提供する為にも、様々な助成金を活用しつつ、支援者の方にも支援をお願いしていきたいと思っています。
より良いサービスとして蔵書のデイジー化を進めました。デイジー化とは録音データやテキストデータをデイジーという世界標準の特別な視覚障害者用ソフトで編集することで、見出しで読みたいところへ飛べたり、ページで飛べたり、しおり機能やハイライト機能もあり、先ほど紹介したサビエ図書館にアップすることができるようになります。使いこなせばとても便利になります。しかし、自動的に編集ができるものではなく、製作基準に従ってボランティアの方が手作業で文章の流れに沿って設定を行なっていきます。それにともない、デイジーに対応したCDの読書専用の読書器が必要になります。去年、当館の蔵書は全てデイジー化を終えたところです。このデイジー化にはボランティアの方々の並々ならぬ情熱のお陰であると感謝しております。
直近の課題としてカトリック中央協議会の会館リニューアルに伴う、当館の利用する施設が1階に集約してもらえることになったので、それに対応した引越等が今年から始まります。7階の録音室と2階の書庫が1階に移転します。
この施設に関わっていて良かったと思う瞬間はどのような時ですか。
私たちは当たり前のことをしているのですけれど、利用者の方から直接お礼を言われる時ですね。その時がやりがいになっています。私どもの施設の目的が情報提供として明確で、利用者の方もそれを求めているし、職員もボランティアの方々もそれを理解していて、あやふやな部分がないのです。その点に関してはもう躊躇なしに行動していくという目的が共通してあります。このことは、ロゴスだけではなくて、全国の図書館等でもそこだけは絶対ブレないと思います。
昔は本当に点字図書館・録音図書があるだけでありがたかったという時代もあり、中途失明になってこの点字図書館の世界を知ると、こんなに本がいっぱいあって、こんなこともしてくれるのかとすごく驚かれる方が多いのです。
最後に、当館に限って言えば、日本カトリック中央協議会や教会関係の方々に関わることができるのが、すごくありがたいと思っています。考え方や方針のベースにはカトリックの支えがあります。菊地理事長にも助けられていて感謝しております。
平井さんが視覚障害者支援の基本的な考え方の本をお書きになりました。
(「平井先生。図書館では、視覚障害がある方に向けてどんな支援ができるの?」DBジャパン)