愛の奉仕活動紹介

愛の奉仕活動紹介: Vol.13 友愛会

2024年05月20日

「友愛会」訪問レポート

今回は東京都台東区にある友愛会を訪問しました。友愛会は山谷地区にあり、2000年から住む場所や居場所がない人たち、路上生活経験者、障がい者、DV被害者、身寄りのない高齢者の方々の為に住居、介護、看護等生活全般の支援を提供している団体です。

 

友愛会の事務所の外観です。

 

朝9時に訪問すると、丁度朝のスタッフのミーティングを行っている最中でした。前日あった引き継ぎ事項について各担当者の方から説明がなされ情報が共有されていきます。その間、デイケアに行く入居者の方のお迎えの対応がはいります。

朝、吐師理事長(一番右側)を中心としてミーティングが開かれています。

 

ミーティングの後スタッフの田中さんから、山谷地区と友愛会についてまず話を伺いました。

田中さん(右側)から説明を受けています。

 

山谷地区はどの様な歴史をもっているのですか。

山谷地区は江戸時代には小塚原処刑場や吉原に隣接し、日光街道の最初の宿場町として木賃宿が数多く並んでいたようです。戦後、東京都とGHQによって戦争被災者のためのテント村がここに用意され、その後バラックが作られ、それらが日本の復興とともに簡易宿泊所(ドヤ)が置き換わるように建設されていきました。そして、戦後の復興期、高度成長期にかけて東京の土木建設に従事する日雇労働者がこのドヤに数多く住むようになりました。日雇労働は景気に大きく左右され、仕事にあぶれた人はいわゆる「野宿者」として路上生活を余儀なくされてきました。また、漫画「あしたのジョー」の舞台となった街として知られ、モニュメントが立てられています。

友愛会前の通りからスカイツリーが眺められます。

 

山谷地区の簡易宿泊所(ドヤ・オレンジ色)と公共施設の位置図です。

 

リフレッシュされた「あしたのジョー」のモニュメントです。

 

この山谷地区で友愛会が活動を始められた背景を教えてください。

山谷地区の高度経済成長期を支えてきた日雇労働者の人々は高齢化が進み肉体労働が困難になり、働けなくなると年金等がない為にすぐに経済破綻に陥ってしまいます。また、高齢で病気、障がい等をかかえ路上生活すらできない人が増えてきました。路上に生活して体調を崩した人も病院に搬送されて三ヶ月もすると退院させられてしまいます。さらに、高度経済成長期からバブル崩壊後の長期経済停滞期を迎え、仕事自体が急激に消滅してしまいました。その後には、行き場のない、何らかの疾病や障がいを抱えた独身の高齢者が取り残されました。

日中の玉姫公園です。空き缶潰し作業やおじさん達が将棋などをしています。

 

そのような時代背景の中で友愛会が立ち上がったのですね。

山谷地区では長年にわたり山友会、ほしのいえ、神の愛の宣教者会等々カトリック系を含め様々な団体・グループが炊き出しや無料診療所等で、仕事にあぶれた人々の生活支援を行ってきました。山谷地区の変遷に伴い、野宿者や日雇の労働者の人々も次第に高齢化し、救急搬送で病院に運ばれることが多くなり、これらの身寄りのない高齢者を受け入れられる施設が求められていました。そこで、山友会のスタッフやボランティアがそれらの居場所を失った人を受け入れる施設として友愛ホームを設置し友愛会を設立しました。資金的には、生活保護費の中から宿泊費、食費などを負担にかからない範囲で払ってもらうことで、日常的な介護や生活支援を継続できるようにしています。

友愛会の理念が掲げられています。

 

友愛会の現在の活動内容は多岐にわたるみたいですが主な内容を教えてください。

まず、宿泊事業とドヤ生活支援事業があります。宿泊施設として、介護、ターミナルケアも可能な男性用施設として「友愛ホーム」、老人ホームや病院に入院を待つ女性やDVの被害者、及び障害を抱えた女性用施設として「やすらぎの家」、介護とターミナルケア対応の男女兼用施設として「STEP-UP HOUSE」の3つを設置運営しています。定員としては42名となっています。さらに、入居者や他の簡易宿泊所に居住している人の食事の提供や様々な生活支援をしています。

訪問事業としては、訪問看護と訪問介護があります。一般の訪問看護ステーションを設置し地域の看護を担うとともに、ボランティアで簡易宿泊所入居者の訪問介護を行うこともあります。理事長を始め精神科訪問看護を得意とするスタッフがいて、様々な困難なケースを依頼されることがうちの特徴です。介護については一般的な訪問介護ステーションに加えて、ドヤの居住者への生活支援も実施しています。

友愛ホームの入り口です。

 

STEP-UP HOUSEの外観です。

友愛会は単に3食を提供しているだけではないとのことですがその意味は何ですか。

この施設の居住者だけではなく近所の宿泊所の希望者にも朝、昼、晩の各食事を希望に応じて提供しています。自己管理ができない方も多く、食事の時に本人の同意のもとに服薬の確認、インシュリンの自己管理が難しい人のために自己注射の確認をして、血糖値を測ってもらい主治医に提出するための記録を取ることなどもしています。この食事の提供は、同時に安否確認を兼ねています。食事に来ない場合、その方の部屋を訪問して安否確認をする約束をしていて、施設の了解も事前に取ってあります。今までに、この訪問時に部屋の中で倒れて動けなくなっていた事もありましたし、残念なことにお亡くなりになっていたこともありました。

そのほかの生活支援としてはどのようなことをするのですか。

生活支援に関しては、利用者本人の同意を頂いたお金の管理制度、定額給付金、ワクチン接種の書面提出、ゴミ出し、害虫駆除、葬儀の立ち合い、遺骨の引き取り等多岐に渡ります。緊急時の対応として、救急車へ同乗しその方の状況の説明も行います。この様な緊急時に対応する為に、2人の宿直体制をとっています。

宿直室です。

 

まるで家族がやるようなことですね。

はい、「家族機能」の社会化ともいわれているんです。

活動を通じて最近の利用者の状況はどのように変化してきていると感じていますか。

当初は、山谷地区に住む労働者を支援しようということで始まりましたが、始めて数年頃から東京都内や関東圏内の福祉事務所等からも入所の依頼が来るようになってます。最近では、八丈島や大島から入所の依頼がきています。そして、入居者も当初の野宿者や労働者に加えて、複合型でボーダー(境界的)な障がい者を福祉事務所がドヤ等に紹介するケースも増えてきています。実際、友愛会を頼ってくる人々も、共通することは「身寄りがない」「金がない」「家がない」ということで、その背後には慢性疾患や身体障がい、認知症、依存症、知的・発達障がい、精神障がい、DV被害者、路上生活経験、周産期の女性、刑期明け・保護観察等々様々な事情が複合的に関係していることが多くなってきています。

様々な状況に対応できる友愛会の活動が重要になってきているのですね。

友愛会だけでできることは限られており、他の団体との連携が重要であると考えてます。

 

ここで、施設内を案内していただくことになりました。事務所のすぐ横には、新たに増設した居室には80歳代の男性が入居されていて、他の介護ステーションから来られた介護士の介護を受けていました。食堂では調理師のスタッフの方が昼食の準備を始めていました。毎食栄養のバランスが取れる様にメニューを考えているとのことです。介護の必要な人は、誤嚥を防ぐために飲み物にもトロミをつけるなどの工夫をしているとのことでした。

 

調理師のスタッフの方が20人分のお昼ご飯を調理中です。

 

自己注射のインシュリンです。

 

居室は一般的なドヤよりは広めの設定になっています。2階には基本的には足腰がしっかりした人が居住し、1階は補助が必要な人が居住するようにしています。介護度が上がると特別養護老人ホーム等に入居をしますが、ご本人が継続して入居を希望される場合は看取りまで行います。

友愛ホームの実際使われている部屋です。

 

マリア像が置かれていました。

 

午後からは看護師で友愛会理事長の吐師さんに訪問看護に同行させていただきながら、合わせて吐師理事長にインタビューをさせていただきました。

訪問看護ステーションと介護ステーションを開設したのは目的があったとのことですが。

友愛ホームの設立によって、住居は提供できるようになりましたが、田中さんが説明したように、入居者の状況は複雑で、生活上の看護や介護が必要な人が増えきて、それにマンパワーが追い付かない状況となりました。そのような時、整備されつつあった訪問看護・介護の制度を利用するために、2003年に訪問看護ステーションと訪問介護ステーションを設立し、今まで、生活支援として行っていた看護や介護の部分を、医療や介護の制度を利用して行うことでマンパワーを確保し、その分その他の生活支援に他のマンパワーを向けることができるようになりました。

先程、他の介護ステーションの介護士の方が介護に入っていましたが。

日常業務の中で、他の事業所の立場を尊重するようにしています。あの方の場合、他の施設から友愛ホームに移ってきたのですが、長年介護してきた介護士が介護し続けられるようにしています。私共の介護ステーションを利用することを求めていません。他の介護士が入ることにより、他のケースを紹介してくる場合もありますし、私共の介護ステーションが手いっぱいになった時に介護を紹介したりして自然と連携するようになります。

ドヤの管理者は他人がドヤに入ることを拒否すると聞いていますが、訪問介護はできるのですか。

以前、ドヤ内の安全を守る意味で他人がドヤに入ることは厳禁となっていました。しかし、入居者の高齢化や疾病、障がいを抱える人が増加したことから、ドヤの管理人が入居者の管理をすることが難しくなってきています。友愛会ではドヤの管理人が困っている様々なことに対処していくだけではなく、そのドヤの意向に反して自分の所に入居者を転居させないなどで信頼関係を構築してきていています。

山谷地区には様々なNPOの団体がありますがそれらの連携はどのようになっていますか。 

山友会、きぼうの家、訪問看護ステーションコスモス、ふるさとの会とかは繋がっていて、地域包括ケアの先進地といえます。対象になる人たちに困難ケースが多いので、単独ではケアできないケースも多くなります。理念に燃えて山谷で活動を始めた民間の各団体は、このような現実に直面して自分の限界を知って、他との繋がりを求めるようになった経緯があると考えています。そして、実際に繋がると様々なケースに対応ができるようになり、山谷以外の地域からも困難なケースを山谷に紹介すれば何とかしてもらえるということになってきています。福祉事務所から日雇い労働経験者でなくても、難しいケースは山谷に紹介してくるようになっています。それにいかに対応するかでみんなが連携して考えていくというようなことになり、様々なケースが積みあがってきました。例えば、他の地域であれば病院に完全介護で入院している人を、山谷では地域で診ていけるイメージでしょうか。その意味で福祉の先進地域であるといえると思います。

友愛会は最も困難なケースを受け入れることが多いいのですか。

困難なケースというのも様々な分野があります。例えば、ターミナルケアでしたら友愛会だけではなく、訪問看護ステーションコスモスとかきぼうの家とかがホスピスの役割をしています。私とか田中さんが精神科と依存症、あるいは触法ケースに長年携わってきているのでその分野で強いと思っています。特に、法律に触れる行為をした人のケースへのアプローチで評価されていて、法務省や刑務所、保護観察所から直接依頼が来ます。精神的な障がいがある人の出所後の支援を依頼されます。友愛会が行き場所を失った人が自立できるように包括的な生活支援をおこなえることがその背景にあるように思います。前科19犯の人が多方向からのアプローチで無事生活を継続出来ていたりします。